しかし、それだけだとここまでの成功に至らなかったはずだ。私が注目するのは、彼らの音楽の「美味さ」、つまり普通の音楽ファンにも、食べやすく/取っつきやすく仕上げている点である。
例えば、代表作『白日』は「上手さ」を「美味さ」に昇華するアイデアに満ちあふれている。
冒頭「♪時には誰かを 知らず知らずのうちに……」は、イントロなしで突然始まる。鍵盤楽器だけのシンプルなバックに、ボーカルは井口理の高音ファルセットで歌われる。コード進行「C→Bm7→E7→Am」(キーをAmに移調)もやたらと切なく、聴いた瞬間、冒頭数秒で、聴き手のセンチメンタリズムがあふれ出す。
Bメロの「♪今の僕には 何ができるの?……」からは、リズムが強く前に出てきて踊れる感じになり、平たく言えば「オシャレ感」が漂う。
注目したいのは、やや細かな話になるが、ボーカルが「オクターブ・ユニゾン」になるところ。井口理のファルセットのオクターブ下で、常田大希が同じメロディを歌うのだ。「オクターブ・ユニゾン」の効果によって、ボーカルの音の厚みがぐっと増す。個人的にはこの「オクターブ・ユニゾン」を聴いて「この曲は売れる」と直感した。
Jポップは洋楽と比べて、ボーカルの比重が高く、かつ音の厚みを珍重する特性があると考える。Bメロの「♪今の僕には 何ができるの?……」からCメロの終わりまで延々と続く「オクターブ・ユニゾン」は、この2つの特性を一気に具現化している(参考:本連載過去記事「『ボヘミアン・ラプソディ』なぜ若者に人気? 『元祖Jポップ』としてのクイーンの魅力」)。
現代の若者を代弁するようなパンチライン
「オシャレ感」を漂わせながら、「オクターブ・ユニゾン」だけでなく、派手派手しいディストーション・ギターも使うことで、Jポップ的な(=日本人好みの)音の厚みを保持しながら、曲は進行していく。
「分数コード」「dim(ディミニッシュ)」「m7-5(マイナー・セブンス・フラット・ファイブ)」を多用するコード進行は、米津玄師に通じるものだが、当の米津玄師が2018年8月、King Gnuの『Prayer X』という曲について「この曲邦楽で今年一番好き」とツイートしているので、相互影響なのかもしれない。
と、盛り上がってきて、曲後半には、現代を生きる若者の寂寥感を代弁するようなパンチラインが、これでもかこれでもかと繰り出されるのだが、ここが、最高に「美味い」(美味しい)。
・「朝目覚めたら どっかの誰かに なってやしないかな」
・「後悔ばかりの人生だ」
とくに「朝目覚めたら どっかの誰かに なってやしないかな」は、それを受けた「なれやしないよな」も含めて、大サビで炸裂する効果絶大なパンチライン。カラオケボックスで、ここを歌って大盛り上がりする若者の姿が目に浮かぶ。
3月15日更新のDAM CHANNELとJOYSOUNDのカラオケランキング(週間)で、『白日』は共に3位という高水準をキープしている。デジタルシングル発売から1年経っており、かつ音楽的に非常に高度なこの曲が(53歳の私には息継ぎができない)、好んで歌われていることの背景には、これらのパンチラインが大きく寄与していると考えるのだが。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら