「今や街全体がいわば戦時中の戒厳令下のような状態です。それにだれも街へ出たくない、と思っているでしょう。でも、国が徹底的に封鎖対策を打って、人との接触が避けられるのは、安心でもあります。経済的な打撃を背負ってでも、国民の健康を第一に考えた真摯な判断だと思います。だからこそイタリア人も歯を食いしばって、乗り越えようと協力しています。イタリア式のハグができないのも、いち早く成果が出ることを願って、しばらくの辛抱です」
これは現地に在住する日本人A氏のコメントだ。A氏の知る限りでは政令に反発する者はごく少数のようで、暴動は発生していない。
イタリアの医療クオリティは低くない
なぜここまでイタリア北部におけるコロナウイルス感染が広まってしまったのか、その答えを出すのはなかなか難しい。医療に関して、イタリアでは公立病院は無償とされているが、プライベート病院含め、そこにかかるのは日本のように簡単ではない。とはいえ、決して医療クオリティが低いワケではないというのが私の実感だ。
私は過去に急患を連れてイタリアの救急病院を訪ねたことが何回かあるが、そのオペレーションは至極適切であった。
実は2月前半、まだ事が大きくなる前のモデナに私は滞在していた。現在、日本ではイタリアをはじめとするヨーロッパ地区で新型コロナウイルスの感染が急拡大したことに対して「コロナウイルスに関する危機感がなかった」とか、「衛生に対する配慮がない」といった断定的なコメントが見られるが、筆者としては少なからぬ違和感を持っている。
アジア人である私が、当地にて差別的な目で見られることはなかったし、皆は“未知の敵”に対して正しく恐れていたように感じる。もちろんマスクをする習慣は当地にはなく、マスクをして咳き込むアジア人がいれば皆の間で緊張が走るということはあったが……。
つまり、イタリア人たちは十分にコロナウイルスへの認識はあった。そして、自分たちが日本人のように危機の中でもパニックにならず合理的に動くというメンタリティーを持ち合わせていないことを自覚しているだけに、警戒心も相当なものであった。滞在も終わりになると新聞ではさかんにコロナウイルスの恐ろしさを謳っていたのが印象的であった。
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