もう1つの手であるETFの買い入れ拡大には、含み損のリスクが伴う。黒田総裁は3月10日の参議院予算委員会で日銀が保有するETFの時価が簿価を下回る損益分岐点について、「(2019年)9月末時点で日経平均株価1万9000円程度だが、500円程度切り上がっている可能性がある」と述べ、損益分岐点が1万9500円程度であるとの認識を示した。
ニッセイ基礎研究所の試算では、1002億円の買い入れを3回行った3月9日時点で、1万9642円を下回ると日銀の保有するETFに含み損が発生する状態だという。
日銀はETFについて「(保有する)時価の総額が帳簿価額の総額を下回る場合に、その差額を上半期末および事業年度末に計上する」としている。さらに、時価が著しく下落した場合、減損処理も必要になる。
ETFの減損で財務毀損のリスク
一般的に保有する株式の減損は簿価の半分程度が目安だが、「日銀の場合、保守的に簿価から3割程度下落した段階で(決算で)減損処理を行うのではないか」(市場関係者)との見方もある。損益分岐点が日経平均で1万9642円と仮定すると、3割下落した水準は約1万3800円となる。
ニッセイ基礎研究所の計算では日銀が保有するETFの簿価は29.6兆円。3割の下落で想定される損失は約9兆円。一方、日銀の自己資本は4.6兆円で、債券取引損失引当金を含めても9.3兆円だ(2019年9月期末)。世界景気不安や円高の進行で株安が止まらなければ、日銀の財務が大きく毀損するリスクが高まる。
以上のように、日本銀行が大規模な追加緩和を打つうえでは、民間金融機関のダメージか、自身の甚大な財務毀損リスクを覚悟する必要がある。
仮にこれらの施策でも改善せず、景気悪化となれば、一度「金利」に移行した政策目標を国債買い入れを通じた量的緩和に戻すことにもなりかねない。約500兆円とすでに日本のGDPに匹敵するほどの国債を保有し、出口の遠い日銀にとっては量の拡大は避けたいはず。先進国の中央銀行との緩和合戦に発展した場合、日銀はどう動くのか。少なくとも「静観」という選択は許されない状況だ。
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