新国立競技場の総建設費は約1529億円。東京オリンピック・パラリンピックが中止になった場合、これだけの投資が「ムダ」になってしまいます。財政赤字に苦しむわが国としては、こんなムダだけは何としても避けなければなりません。
「オリンピックに使わなくてもスタジアム自体は残るのだから、『ムダ』は言いすぎなのではないか」
そんな声が聞こえてきそうですが、実はこの新国立競技場、オリンピック後にどのように使うか、「後利用」の計画が現時点でまったく見えてきません。
民間なら常識の「投資を回収する」発想がゼロ
新国立競技場については、計画段階から、政府をはじめとする関係者の方々へ直接提言をさせてもらったり、建設が着工されてからは、諸々の相談を受けたりしてきました。ただ、設計コンペの段階で「投資」という感覚、つまりは「資金を回収する」という感覚が関係者の誰にもまったくなかったため「オリンピック用のスタジアム、終わったらどうしたらいいでしょうか? 誰か何とかしてくれないでしょうか?」という、そのくらいの意思しか感じられない「相談」でした。
担当の役人の方も、そもそも新国立競技場の建設に主体性があったわけではなく「上からつくれって言われたから仕方ない。それを何とかしろ、って言われているから仕方ない」という雰囲気でしたし、完成後も何人かの関係者とお会いしましたが、「つくってしまったんだから仕方ない。それをどうするか考えよう」という調子でした。
僕の感覚から言えば「仕方ない、だから次の策」では何の蓄積にもならないので、とにもかくにも「どこで、なぜ、こうなってしまったのか」とういう振り返りを明確にすべきだと思っています。
新国立競技場の年間維持費は24億円と言われています。このままでは、これがまるまる赤字となります。1529億円の建設費の減価償却費も加味すると、50年で償却したとしても年間約30.6億円ですから、本来は合計54億円が毎年目指すべき収益となるはずです。
この新国立競技場、2015年までは故ザハ・ハディドさん設計による2500億円を超える巨大なスタジアムの建設が計画されていました。そもそも、このザハ案が白紙撤回されたことで、ザハ・ハディドさんへのデザイン料約14億円の支払いを含めて、約67億円の整備計画費が無駄になっています。ですので、本来はこの金額も新国立競技場のトータルコストに盛り込むべきでしょうし、この67億円の責任は誰がどう負うべきだったのか、ここも明確にすべきだと思います。
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