ビル・ゲイツ「コロナ対策は巨額投資が必要だ」 100年に一度の病原体として扱うべきだ

✎ 1〜 ✎ 27 ✎ 28 ✎ 29 ✎ 最新
拡大
縮小
(写真:Denis Balibouse(左上)、Jason Redmond(右上)、Athit Perawongmetha(下)/ロイター)
新型コロナウイルスの感染拡大が世界を脅かしている。3月12日には世界保健機構(WHO)のテドロス事務局長が「新型コロナウイルスはパンデミック(世界的大流行)と言える」と表明。今後は感染拡大の予防だけではなく、ワクチンや抗ウイルス剤の開発も重要となってくる。各国のリーダーは、パンデミックにどう対応するべきか。マイクロソフト共同創業者で、ビル&メリンダ・ゲイツ財団共同創設者兼会長のビル・ゲイツ氏によるニューイングランド・ジャーナル・オブ・メディシンへ(NEJM)の寄稿を同ジャーナルの許可を得て、翻訳・掲載する。

「100年に一度の病原体」と想定すべき

どんな危機においても、指導者には同等に重要な2つの責任がある――目の前の問題を解決することと、その問題が二度と起こらないようにすることだ。COVID-19の世界的流行はよい例だ。すぐに命を救わなければいけない一方で、突発的な感染症の集団発生への対応のあり方を全般的に改善しなければならない。前者はより緊急性が高く、後者は長い目で見て深刻な影響をもたらす。

長期にわたる課題――突発的な感染症の集団発生への対応能力の向上――は、新しいものではない。世界的な保健専門家は何年も、1918年のスペインかぜ(インフルエンザ)のエピデミック(流行)に迫る速度と深刻さを持つ次のパンデミックは、発生するかしないかではなく、いつ発生するかの問題であると主張してきた。 ビル&メリンダ・ゲイツ財団も近年、かなりの財源を投じて、世界がそのような筋書きに備える支援をしてきた。

現在、私たちは再び危機に直面している。COVID-19は先週(編注:同記事は2月末執筆)、懸念されていたように、100年に一度の病原体であるかのような動きを見せ始めた。そこまでひどいものでないことを願っているが、そうでないとわかるまで、そのようになるものとして想定すべきだろう。

COVID-19がこれほどの脅威であることには2つの理由がある。1つ目は、持病のある高齢者だけでなく、健康な成人を死に至らしめる可能性があるという点だ。これまでのデータは、このウイルスの致死率が約1%であることを示唆している。この割合は、典型的な季節性インフルエンザに比べて何倍も深刻なものだ。これは、1957年のインフルエンザのパンデミック(0.6%)から1918年のインフルエンザのパンデミック(2%)の中間に位置している。

2つ目の理由は、COVID-19が非常に効率的に伝染することである。感染者の平均的な二次感染者数は、2、3人に上る(急激な増加率)。また、症状が軽い人や発症前の人であっても人に感染させる可能性のあることを示す確固たる証拠がある。つまり、COVID-19は、中東呼吸器症候群(MERS)や重症急性呼吸器症候群(SARS)よりも抑制がはるかに難しいということだ。この2つは、感染率がはるかに低く、発症後の患者からのみ感染する。現に、COVID-19はSARSの4分の1の期間で症例が10倍になった。

国、州、地方の行政、公衆衛生機関は、ウイルスの拡散を抑えるため、これから数週間にわたって手段を講じることができる。例えば、自国民の対応を支援することに加え、低・中所得国(LMIC)がこのパンデミックに備える支援をすることも可能だ。

多くのLMIC諸国の医療制度はすでに疲弊しており、コロナウイルスのような病原体にたちまち圧倒されてしまう。豊かな国々は当然の望みとして自国民を優先するため、貧しい国々が政治的・経済的にテコ入れをすることはほぼ無理だ。

次ページ治療とワクチンの開発は可能なのか
関連記事
トピックボードAD
政治・経済の人気記事
トレンドライブラリーAD
連載一覧
連載一覧はこちら
人気の動画
【田内学×後藤達也】新興国化する日本、プロの「新NISA」観
【田内学×後藤達也】新興国化する日本、プロの「新NISA」観
TSUTAYAも大量閉店、CCCに起きている地殻変動
TSUTAYAも大量閉店、CCCに起きている地殻変動
【田内学×後藤達也】激論!日本を底上げする「金融教育」とは
【田内学×後藤達也】激論!日本を底上げする「金融教育」とは
【田内学×後藤達也】株高の今「怪しい経済情報」ここに注意
【田内学×後藤達也】株高の今「怪しい経済情報」ここに注意
アクセスランキング
  • 1時間
  • 24時間
  • 週間
  • 月間
  • シェア
会員記事アクセスランキング
  • 1時間
  • 24時間
  • 週間
  • 月間
トレンドウォッチAD
東洋経済education×ICT