非製造業でも被災地域以外で売り上げの落ち込みがみられる。災害の発生が消費の自粛ムードや消費者マインドの悪化につながるためだ。今回のように、感染症の場合には感染防止の観点から人が集まるイベントの開催ができなくなることや、感染を警戒して人々が外出を控えること、感染のおそれが大きい施設の利用を避けることがより大きな要因となる。
今回、間違った情報からトイレットペーパーの買いだめが発生したように、消費者が必需品の備蓄に走るという追加的な需要も生まれるが、全体としてみれば消費に与える影響はマイナスのほうがはるかに大きい。内閣府の「地域の経済2011」では、東日本大震災の発生直後に、水、食料品、防災用品等(水、ミルク、カップ麺、レトル食品、缶詰、乾電池、トイレットペーパー、おむつ等)の買いだめと流通の混乱から商品不足が発生したと述べられているが、消費全体の動きの評価としては、消費を押し下げる効果のほうが大きかったと結論づけている。
期間の長さや終息後の回復過程も異なる
第二の違いは、経済がマイナスの影響を受けるメカニズムの違いだ。自然災害では、地震や台風によって企業の生産設備が破壊されて生産活動ができなくなることや、道路や鉄道などの社会資本が利用不能になって、生産物の輸送ができなくなることによって、被災地域の経済活動が止まる。しかし、感染症ではこうした資本ストックの毀損は起こらない。供給の減少は、感染が拡大して生産活動ができなくなったり、感染の拡大防止のために工場や事業所が生産活動を休止するフローの面で起きる。
自然災害はオーストラリアの山火事のように何カ月も続くものもあるが、多くの場合には短期間である。これに対して、感染症は発生から流行の終息を確認するまでに長期間を要する。例えば、2002年11月に発生したSARSの場合には、WHO(世界保健機関)がSARS封じ込め成功を発表したのは2003年7月だ。MERSでは2012年9月ころから感染の発生が知られていたが、2015年5月に韓国で感染が広がり、韓国政府が終息宣言を出したのは12月末だった。今後感染拡大をなかなか抑制できなければ、消費需要の低迷や感染拡大防止のための生産活動の制限も長期間続くリスクが大きくなる。
第三に事態が鎮静化した後の状況も異なってくる。自然災害では、被害を受けた社会資本や企業の生産設備、個人の住宅を元の状態に戻すための復興需要が発生する。
東日本大震災の後には、岩手・宮城・福島の3県では、公共事業が全国平均に比べて大きく増加し、県内の生産活動が全体に高まった。有効求人倍率は震災以前には全国平均を下回っていたが、2011年後半になると全国を上回るようになった。災害が一段落すると、破壊された資本や、民間企業の生産設備、個人の住宅などの復旧のための投資が活発化し、いわゆる復興需要によってGDP(国内総生産)は平時よりも押し上げられることになる。
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