落語家・柳家三三「教えない師匠」に学んだ境地 中学1年ではまった世界、師匠小三治との縁

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「世間一般では、やり手が少ないよとか地味だよとかいう噺でも、それを俺の力で聞かせてやるぜとかではないですよ。落語はみんな面白いと思うからやってるだけなんですよね」

(編集部撮影)

「田能久」「松山鏡」は田舎者の噺だ。以前にも触れたが、落語の田舎者は、どこの地方でもない架空の田舎の言葉を使う。三三の田舎者は、田舎なまりであるにもかかわらずわかりやすいのだ。どちらも昔話のような素朴な味わいがあるが、三三はその味わいを残しつつ小品ながら聞きごたえのある落語に仕上げている。

噺の導入部、いわゆる枕でも、三三は独特だ。

最近の若手実力派の落語家は、枕に工夫を凝らす。時事ネタの話題を振ったり、自分の趣味へのこだわりを語ったりするものだが、三三の枕は短い。そしてオーソドックスだ。

しかし油断ならない。

「なんたって、私たちはお客様という“生もの”が相手ですから。今日なんか客席を見渡すと“干物”みたいな方もいらっしゃるみたいですが」

端正な語り口で、この手のドキッとするような言葉を1つ2つ入れて、客席との距離感をぐっと縮めるのだ。こうした枕の「切れ味のよさ」も三三の魅力だろう。

「枕で客席を沸かせる落語家さんは多いですが、面白い枕を振るのは僕は無理。長い枕をしゃべってるとボロが出るから、短くやっています(笑)」

先入観を見事に打ち破った

ここまで読んで、おわかりいただけただろうか。三三は、筆者の問いかけに対して、ほとんど否定形で答えを返したのだ。

「師匠小三治直伝の正統派?」に対しては「師匠から一度も噺を教えてもらったことはありません」、「立て板に水ですね」には「そう見せてるだけ」、「独特の枕ですね」「長くやったらボロが出る」。

決して三三がへそまがりなわけでも、不実なわけでもない。正直に答えていただいたのだ。しかし筆者の「予備知識」「先入観」は見事に破壊されるのだ。

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