貴族のような生活なのに幸せでない現代人の闇 「前のめりな生き方は他者に利用される」
「不安」という心理は、私たちが考える以上に影響が大きいものです。芥川龍之介は「漠然とした不安」から自殺しましたが、中世的な神の世界から離れた近代人にとって、孤独と不安は常に付きまとう影のような存在になりました。
どんなに物質的な豊かさに囲まれていたとしても、「孤独感」や「不安感」に常に襲われている状態では、人間は幸福を感じることは難しいでしょう。幸福感は、不安感との兼ね合いで大きく左右されます。「今のままで老後は大丈夫なのか?」という将来に対する不安感、周りは豊かだけれど、自分はそれに比べてお金がないとか、学歴やキャリアがないという劣等コンプレックス……。
こうした不安は、幸福感を相殺する原因であると同時に、さまざまな行動のモチベーションにもなります。不安から解放されようとして、人はさまざまな行動に走るのです。
不安を解消する一番の方法はお金
書店に足を運ぶと、相変わらず自己啓発本やハウツー本がたくさん並び、人気が高いようです。中でも根強い人気なのはお金に関するもの。「損をしない株式投資」だとか「老後資金の作り方」といった本がたくさん並んでいます。
不安を解消するいちばんの方法がお金です。資本主義の世の中、とくに現在のような高度消費社会において、まず何より頼りになるのがお金だということ。つまり、資本主義経済においては、お金が最も価値と影響力を持つ──現代は「拝金教」だと言うのはまさにそのことです。このようなお金に対するあくなき追求の裏に、「孤独」と「不安」があるということを、私たちはあらためて認識しておくべきだと思います。
お金を稼ごうと頑張るのは豊かになりたい、幸福になりたいという欲望や願望があると同時に、コインの裏表のように「孤独に対する恐れ」や「不安」があるのです。
問題は、現在の資本主義社会、高度消費社会の中で、不安をあおり、恐怖心を抱かせることで商品を売りつけようとするやからが後を絶たないことです。例えば雑誌のマネー特集などでどんなことを言っているか? 「預金するだけでは引き落とし手数料だけで損をする!」とか、「低金利時代は投資をせずに何もしないことのリスクのほうが高い」など、投資をしないといかにも乗り遅れ、損をしてしまうようなことを書き立てます。
誰もがこれからは投資をする時代のように感じ、何かしないといけないという不安感、焦りを覚えます。そして、不安を解消し、安心を得るために金融商品を買う。マスメディアを中心にした、膨大なコマーシャリズムの蔓延によって、私たちは日々脅され、不安をかき立てられている状態と言ってよいのです。
このような慢性的な不安感の中で、しだいに精神がすり減り、うつ病や自律神経失調症など、心の病に陥っていく。資本主義社会が成熟するほど、心を病む人が増えるというのは、そんな構図もあると考えます。
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