日本企業が知るべきイギリス離脱後の焦点 ジョンソン首相の「脅し戦術」は通用するか

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ジョンソン首相は、移民制限や規制の独立性を確保しながら関税はほぼゼロ(撤廃率98%)というEU・カナダ間の包括的経済貿易協定(CETA)をモデルとした「カナダ型」のFTAを目指す方針を打ち出し、EUルールに従うことは拒否すると明言している。これが実現しなければ交渉打ち切りも辞さない構えだ。

仮にイギリスが交渉を打ち切れば、WTO(世界貿易機関)ルールの関税や通関手続きが発生する「合意なき離脱」に近い状況になる。一方、EU側のバルニエ首席交渉官は、イギリスのEU市場へのアクセスはあくまでEUルールへの準拠が条件との立場を繰り返しており、双方が妥協できるか予断を許さない状況だ。

交渉は「部分合意」の可能性が高い

第3のポイントは、想定される交渉のシナリオだ。大きく分けて4つある。①2020年末までに経済、安保面を含めて包括的な将来関係で合意、②物品のFTAなどに限って部分合意、③移行期間を延長して交渉継続、そして、④移行期間内に交渉がまとまらず「合意なき離脱」に至る最悪シナリオだ。

ジョンソン首相就任日にロンドンで行われた抗議デモに参加した若者たち(写真は2019年7月)。20代、30代にはEU残留派が多い(記者撮影)

最も可能性が高いと見られるのが、部分合意だ。優先順位の高い物品のFTAなどで合意し、残りは移行期間終了後に協議を継続する形だ。FTA交渉には通常、数年かかることが多い。イギリスはこれまでEU内にいた分、一から交渉するケースと比べて交渉は容易との見方もあるが、2020年末までに包括協定を結ぶには時間があまりに短すぎる。

移行期間が延長される可能性もあるが、ハードルは決して低くない。「移行期間中は第三国と協定を発効できず、欧州司法裁判所の管轄下に置かれ、EU拠出金も払い続けなければならず、権限の回復を公約したジョンソン政権として政治的に難しい」(伊藤さゆり・ニッセイ基礎研究所経済研究部研究理事)。

「合意なき離脱」という最悪シナリオについて、ジョンソン氏は可能性をちらつかせるが、相手の譲歩を引き出す「瀬戸際戦術」と見られる。合意なき離脱となれば主要輸出品である乗用車に10%の関税が適用されるなど、EU向け輸出が全体の5割近くを占めるイギリスのダメージは大きい。ジョンソン氏としても国内外資の撤退を加速させるようなことはしたくないだろう。

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