日本企業が知るべきイギリス離脱後の焦点 ジョンソン首相の「脅し戦術」は通用するか
イギリスの中心産業である金融サービス業については、EU内のどこか1カ国で認可を得れば域内全域で自由に事業ができる「単一パスポート制度」が移行期間終了後に失効する予定。ただ、イギリスで認可を取得した金融機関は、欧州大陸側にも現地法人を新設するなどすでに対応済みだ。
残る争点は「同等性評価」(EUの金融規制と同等であることを条件に、非EU国の金融機関に対し単一パスポートに準じたアクセスを認める制度)だが、EUルールに縛られるのを嫌うイギリスと、域外金融機関によるアクセス制約に傾くEUとの見解の隔たりは大きい。
第4のポイントは、日本とイギリスとの新たなFTA交渉の見通し。移行期間中は、2019年2月に発効した日本とEUの経済連携協定(EPA)が維持される。その間に新FTAに合意し、移行期間終了後の2021年1月発効を目指す。移行期間延長なら発効も先送りとなる。
両国政府は日EU・EPAを上回る「野心的な内容」を目指しており、イギリスは環太平洋連携協定(TPP)への参加にも関心も示す。日本側は、日EU・EPAでは発効後8年目にゼロ(当初10%)となる自動車関税について撤廃前倒しを求める構えと見られる。
新FTA締結が移行期間内に間に合うか
もし移行期間内に合意できなければ、日本とイギリスの間での関税や通商ルールは日EU・EPA以前の条件に戻ってしまう。だが、直前までEU加盟国だったイギリスと日本が交渉で激しく対立することは考えにくく、移行期間内に合意できる可能性は高い。
そして第5のポイントは、日本企業に与える影響と想定される対応だ。財務省貿易統計によると、2019年の日本のイギリスへの輸出額は1兆5134億円(世界全体の2.0%)、輸入額は8877億円(同1.1%)。一方、国際収支統計によると、日本のイギリスに対する直接投資残高は2018年末現在、約18兆円で世界全体の約10%を占める。イギリスに進出する日本企業は約1000社に及ぶ。
移行期間中は、ビジネス環境は基本的に変わらない。変わるのは移行期間後だ。「影響度は企業のビジネスモデルによって違う。EU・イギリス間、日本・イギリス間のFTA発効が間に合わないリスクも考慮して対応を準備する必要がある」と、日本貿易振興機構(ジェトロ)の田中晋・欧州ロシアCIS課長は話す。
イギリスと輸出入関係のみの企業については、日本とイギリスの新FTA締結が移行期間終了までに間に合うかが焦点。間に合わないと、日EU・EPAも使えなくなるため、それも念頭に置いた対策が求められる。
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