日本企業が知るべきイギリス離脱後の焦点 ジョンソン首相の「脅し戦術」は通用するか
一方、イギリスに製造拠点があり、原材料を欧州大陸から輸入し、完成品を欧州大陸へ輸出する企業の場合、合意なき離脱になると、新たな関税が往復2度発生する可能性が高い。とくに自動車業界ではこうしたサプライチェーンの構造が多いので影響は大きい。
日本商工会議所の三村明夫会頭は、イギリスのEU離脱は「企業にとってプラスはまずない」と述べている。たとえ新たなFTAで合意し、関税ゼロが維持されたとしても、通関手続きの発生は避けられない見込みだからだ。ジェトロの田中氏は、「物流に要する時間の増加やコストの増大によって、ジャストインタイムの生産体制に影響が生じたり、工場の採算が悪化したりする懸念がある」と指摘する。
イギリスが検討中の新たな移民政策(オーストラリア型のポイント制)が、雇用や賃金面など企業経営にどんな影響を与えるかも不透明だ。ホンダや日産自動車のように、イギリス事業の縮小・撤退決断が加速する可能性は否めない。
あえて積極的に投資する企業も
一方、あえてイギリスに積極投資する企業もある。NTTやソフトバンク、アメリカのフェイスブック、グーグルなどのIT・通信大手が代表例だ。通商問題の影響が比較的小さいこともあるが、彼らが理由に挙げるのが、イギリスの人材力・技術力の高さや情報・マネーの集積。歴史的なポンド安も利用し、人員増強や事業買収を図っている。
「ITサービス業がモノづくりをするなど、デジタル化で業界の境目がなくなり、既存のビジネスモデルが成り立たなくなっている。通商関係の変化だけではなく、産業界のゲームチェンジの動向も見据えながら、守りと攻めの戦略を考えていく必要がある」と、PwCジャパンの舟引勇ディレクターは言う。
ホンダのイギリス撤退にしても、電動化やAI自動運転など、まず自動車市場の劇的な構造変化が決断の背景にある。ブレグジットはその経営判断をさらに後押しする要因となった。今後も日本企業は、それぞれが置かれた市場構造の変化と、対アメリカ・対中国を含む通商関係の変化に即応した経営戦略を追求してくことが重要になる。
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