新型肺炎「日本の対応」は不備だらけの大問題 流行が始まっている前提で動かねばならない

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検査体制整備についても、政府の姿勢は不誠実だ。安倍晋三総理は、2月3日の衆院予算委員会で「民間機関との連携も視野に、簡易検査キットの開発にもすでに着手した」と答弁した。

簡易検査はクリニックで実施して、すぐに結果がわかるなど、利便性は高いが、確度が低く、一定の患者を必ず見落とす。それに、政府が主導せずとも、世界のどこかの検査会社が必ず開発する。

喫緊にすべきは、現在の技術ですぐに検査できるような態勢整備だ。検査は簡単だ。咽頭や鼻腔から綿棒を用いてぬぐい液を採取し、ウイルスの遺伝子を増幅し、その有無を調べればいい。RT-PCR法と言われ、国立感染症研究所(感染研)や地方の衛生研究所で実施されている。

前者は厚労省、後者は地方自治体が運営する「研究所」だ。本務は研究や調査であり、検査能力には限界がある。

ウイルスの遺伝子診断はありふれた検査

新型コロナウイルスに限らず、ウイルスの遺伝子診断はありふれた検査だ。クリニックでもオーダーできる。看護師が検体を採取し、検査を外注する。SRLやBMLなどの臨床検査会社の営業担当社員がクリニックまで検体を取りに来て、会社の検査センターで一括して検査する。そして翌日には結果が届く。

新型コロナウイルスに対する検査はすでに確立している。スイスの大手製薬企業ロシュは、1月末に新型コロナウイルスに対応する初の商業用検査ツールを開発し、販売体制が整ったと発表している。

この検査ツールは、感染研などが実施している研究レベルでなく、臨床レベルの厳しい規制、品質管理をクリアしている。世界各国から問い合わせがあるという。

このことはブルームバーグやロイターなどの海外メディアが、日本語版も含めて大きく報じたが、日本メディアはほとんど扱わなかった。安倍総理の発言の扱いとは対照的だった。

緊急事態に際し、日本の政治家、役所、メディアはどこを向いているのだろう。国民本位に考えれば、国産にこだわる必要はまったくない。

余談だが、1月31日に感染研がコロナウイルスの培養に成功したことをメディアは大きく報じた。「新型コロナウイルス、分離成功 ワクチンや薬の開発目指す―感染研」(時事通信)という感じだ。

これは感染研の発表を、そのまま報じたのだろうが、国民にあえて伝えるような内容ではない。分離は海外ですでに成功しており、ワクチン開発はジョンソン・エンド・ジョンソンなどのメガファーマがすでに開発に着手している。

イギリスのグラクソ・スミスクラインはワクチン開発に同社が保有するアジュバント技術を提供すると発表している。

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