新型肺炎「日本の対応」は不備だらけの大問題 流行が始まっている前提で動かねばならない

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ワクチンの世界市場は急成長しており、メガファーマが鎬(しのぎ)を削る。長期的視野に立った基礎研究ならともかく、巨額の資金を要する臨床開発では感染研の分は悪い。

治療薬も同様だ。アメリカのギリアド・サイエンシズ社は来週にも中国で抗ウイルス剤レムデシビルの臨床試験を開始する。中等症あるいは重症と診断された患者を対象に、レムデシビルあるいはプラセボの投与を1日1回10日間受けて、28日後に評価する。最短で2、3カ月で結果はわかる。

ギリアド・サイエンシズ社は1987年創業の製薬企業で、HIV、B型肝炎、C型肝炎、インフルエンザなどの抗ウイルス剤の開発が事業の中心だ。抗インフルエンザ薬オセルタミビル(タミフル)の世界独占特許を有する。

レムデシビルはエボラ出血熱の治療薬として開発し、失敗した。基礎的検討でSARSに対する有望な結果が出ているため、急ぎ治験を計画した。

これ以外にも人工知能創薬の英ベネボレントAIが、既にFDA(アメリカ食品医薬品局)で承認されているアメリカのイーライリリーとインサイトが販売する関節リウマチ治療薬オルミエントが有望と発表しているし、アイルランドの製薬企業リジェネロン社も治療薬開発に乗り出すと発表した。

製薬事業は営利企業だ。儲かれば率先して動く。前出のロシュの場合、ブルームバーグは以下のように報じている。

「同社では、数週間前に中国・武漢市を発生源とする新型コロナウイルスの存在が浮上した時に分子診断医から成る緊急対応チームが始動。提携先と協力し、スタッフが十分に配置された施設で数時間以内に診断が可能な検査ツールを開発した」(「ロシュの新型ウイルス検査ツール、診断の加速化に寄与する可能性」2020年1月31日)

製薬企業の国籍にこだわっている場合ではない

この領域で国や国立の研究所がやれることはない。国の仕事は予算をつけて、このような検査やワクチン・治療薬を速やかに導入できるように「市場」を作ることだ。つまりメガファーマを「誘致」することだ。製薬企業の国籍にこだわっている場合ではない。

国民は製薬企業の国籍には何の関心もない。「国産の薬を処方してください」という患者には会ったことがない。国民の願いはいい医療を受けることだ。

厚労省に求められているのは、希望者すべてが検査できるように財源を用意することだ。具体的には保険診療に入れればいい。これには法改正は必要なく、厚労省内の中央社会保険医療協議会(中医協)の審議を経て、厚労大臣が決めればいい。やる気になれば、すぐにでもできる。

市場さえ整備すれば、放っておいても製薬企業は売り込みに来て、医療機関と検査会社が日常診療の現場で試行錯誤を繰り返し、態勢を整備してくれる。

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