新型肺炎「日本の対応」は不備だらけの大問題 流行が始まっている前提で動かねばならない

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新型コロナウイルス感染は、指定感染症のため、陽性になれば、医師には報告義務が課されている。厚労省はリアルタイムに感染状況を把握できる。

その費用は1検体で1万円くらいだから、100万人が検査しても、100億円程度だ。

クリニックで新型コロナウイルスを検査することは、患者にとってはありがたいが、一部の病院経営者は反対するかもしれない。それは風評被害により患者が来なくなるからだ。

知人の医師は「私の勤める病院が新型コロナウイルス患者の受け入れ施設になったので、それ以降、外来の初診患者は激減しました」という。院内感染を恐れた患者が来なくなったのだ。

この医師は公立病院に勤務しているため、赤字が出ても税金で補填してもらえる。しかし開業医はそうはいかない。

これに対応するにはスマホやテレビ電話を用いた遠隔診断をすればいいが、初診患者に対する遠隔診断は厚労省が規制している。このことを検査しないで済ませる理由にする医師がいるし、厚労省もあえて規制を緩和しない。

いっそのこと、検査を市販したらどうかと思う。性感染症など一部の検査はクリニックを受診せずとも、検査が可能だ。その費用を助成してもいい。医療機関を介するより費用は割安になる。

新型コロナウイルス「陽性」になってしまったら?

では、検査を受けて万が一、陽性になった場合にはどうすればいいだろうか。

肺炎など重症者は入院治療が必要だ。専門家のいる病院を紹介してもらい治療を受ければいい。

ただ、多くは軽症だ。普通の風邪と同じで、自然に治癒する。実は感染拡大を防ぐには、このような人こそ、正確に診断する必要がある。それは診断しなければ、このような人々は「軽い風邪」と考え、日常生活を続けるだろう。満員電車で通勤・通学する。周囲に感染を拡大させる。

これはインフルエンザ対策と同じだ。感染したら会社に来ない、解熱しても2日間は休むなどの習慣が社会に根付いたことで、流行が抑制されている。

インフルエンザ対策で重要なのは感染者が自宅にとどまることだ。養生だろうが、仕事だろうが、自分の判断で日常生活を継続できる。

この点で、日本の新型コロナウイルス対策は問題が多い。いったん感染が確認されると、2週間も隔離され、就業を禁止される。いったい、いまの日本で2週間も家をあけ、仕事を休める人がどれだけいるだろうか。

こうなると、たとえ、新型コロナウイルス感染を疑っても「多分、新型コロナウイルスではないだろう」という希望的な観測に基づき、検査を受けない人が出てくるだろう。

早期に検査を受けないことは患者にとって何の不利益もない。新型コロナウイルスには特効薬がないため、早期に診断しても、とくに治療はないからだ。万が一、肺炎などを起こせば、そのときに病院に行けばいい。

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今回の流行を受けて、日本では自民党の岸田文雄・政調会長が感染症対策の強化を狙って、政府内に新組織設置を検討する考えを示している。このような発言の背景には政府の権限が弱いので、徹底的な対策ができないという考えがあるのだろうが、それは的はずれだ。

新型コロナウイルス対策は、実情に合わせて柔軟に対応しなければならない。

上 昌広 医療ガバナンス研究所理事長

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かみ まさひろ / Masahiro Kami

1993年東京大学医学部卒。1999年同大学院修了。医学博士。虎の門病院、国立がんセンターにて造血器悪性腫瘍の臨床および研究に従事。2005年より東京大学医科学研究所探索医療ヒューマンネットワークシステム(現・先端医療社会コミュニケーションシステム)を主宰し医療ガバナンスを研究。 2016年より特定非営利活動法人・医療ガバナンス研究所理事長。

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