日本の半導体企業の元トップが選んだ新天地 紫光集団の日本拠点で大規模な開発体制を構築へ

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――ご自身の経験の中で印象的なことはありますか。

私自身、TIにいたころに2年半くらいアメリカで働いていたときが(お客さんとのやりとりで)最も勉強になった。エルピーダに入ってからもアップルの技術者と議論をすると「もっと消費電力が少なくないとだめだ」とか、「同じ操作を100万回行っても不良が出ないように」とか言ってくる。最初はどうしてそんなことを言うのかがわからなかった。

最も衝撃的だったのは、当時、アップルから「最初からコストなんか計算しない。世の中のためになるものを作れば数が増える。数が増えればコストは下がる」と言われたこと。少なくともジョブズの時代はそうしたやり方だった。そういったことに触れる経験はとても重要だった。

――中国の企業で仕事をするのは、何かの義理があるからですか?

義理なんてない。そんなにお世話になっているわけでもない。では、どういうことを考えているかというと、今みたいに世界のメモリ市場をサムスン電子とSKハイニックスとマイクロンが牛耳っているという状況はまずいということだ。

例えば極端なことを言うと4GBのDRAMはエルピーダが経営破綻した頃は1つ90セントだったが、一時期7ドルくらいまで値上がりした。今でもまだ1.5ドルくらいある。開発のスピードが遅くなっているし、価格の下がり方もすごく遅くなっている。

これは世界中の顧客にとって問題で、今後、IoT(モノのインターネット)化でどんどんメモリを使うわけでしょう。そうなったときにメモリが高くてはやっていけない。だから、どんどん価格が安くなって需要が増えていくようにならないとまずいと思う。

表立って「中国はいい」と誰も言わない

――米中関係が緊張する中、中国の半導体国産化に協力することにためらいはないのですか。

これまで言ってこなかったけれども、今は中国と日本の関係が非常によくない。ただ、ビジネスをやっている人たちは、誰と話しても「中国は非常にいいお客さんだ」と言う。それなのに、表立って「中国はいい」とは誰も言わない。それはおかしな話だ。

中国と日本の貿易量のほうが、アメリカと日本よりもはるかに大きい。アメリカは第2次世界大戦後の混乱期を救ってくれたということはあるが、日本が経済的に強くなってくると、警戒感を抱いたと思うが、自動車でも半導体でもひどい仕打ちを受けた。

私は日本と中国の間で協力できることがあったらそれをやってみたい。中国はそんなに日本をないがしろにしていることはないと思う。

――INCJ(旧、産業革新機構)が多額の資金を投じている昨今のジャパンディスプレイなどの例を見ていると、国が関与しても必ずしもうまくいくわけではありません。一方で中国では国からの支援が手厚いと聞きますが、そうした支援の是非はどう思いますか。

中国は何にでも国がお金を出すと皆さん感じているだろうけど、それは全然違う。中国は特化したところにお金を出している。それはアメリカも同じだと思う。

日本の場合は例えばエコカー減税などがあるが、実際には自動車メーカーに対する補助なのにそのようには言わない。税金をできるだけ企業には出したくはない、と。でも、実際にはけっこう使っている。

つまりは、(国が)お金を出したときになぜそこに出しているのか、議論が足りないのだと思う。自動車産業が弱くなると、日本は貿易を通じて海外からお金を集められなくなり、ひいては海外からものを買う力も弱くなってしまう。だから自動車産業はきちんと強化する。そういった議論をしたうえでお金を出すような形になっていけばいいと思う。

高橋 玲央 東洋経済 記者

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たかはし れお / Reo Takahashi

名古屋市出身、新聞社勤務を経て2018年10月に東洋経済新報社入社。証券など金融業界を担当。半導体、電子部品、重工業などにも興味。

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