多くの人は「チケット転売」で実は得をしている 「ダフ屋」の行動が実は理にかなっている理由

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われわれ消費者の要求こそが、ダフ屋稼業を成り立たせている(写真:Graphs/PIXTA)
いよいよ今年7月に迫った東京オリンピック・パラリンピック。開会に向けて熱気が高まる一方で、観戦チケットの高額転売が問題となっている。だが、そもそもチケット転売はなぜ「悪」なのか? ダフ屋が市場で果たしている役割とは? 『不道徳な経済学:転売屋は社会に役立つ』で全米に大論争を巻き起こした異色の経済学者、ウォルター・ブロックが「リバタリアニズム(自由原理主義)」の立場から論じる。

ダフ屋は泥棒なのか?

ある高名な辞書は、“スカルパー(戦利品として敵の頭の皮を剥ぐ人々)”を「短期間に売買を繰り返して利ザヤを稼ぐ者」、“スカルピング(頭皮剥ぎ)”を「詐欺・泥棒の類」と定義している。これは一般大衆のチケット・スカルパー、すなわちダフ屋に対する敵意をよく表している。

彼らへの非難の理由を見つけるのは難しくない。大人気のコンサートやスポーツイベントを楽しみにやってきた人は、会場で、3000円の席に1万円も払わなければならないことを知って仰天する。

そしてこの馬鹿げた値段は、ダフ屋が定価で買ったチケットを、人々がどんな言い値でも買いたいと言い出すまで故意に売り惜しんできたからだと考えるだろう。だが、経済的に分析するならば、ダフ屋に対するこの批判は不当である。

なぜダフ屋が存在するのだろうか。

ダフ屋稼業の成立条件、すなわち必要にして欠くべからざる前提とは、固定されて変更不能なチケットの供給量である。需要の増加とともにチケットの枚数が増えていくのなら、ダフ屋はいなくなるだろう。追加のチケットが定価で手に入るのなら、誰がわざわざダフ屋から買うだろうか。

2つ目の成立条件は、チケットに定価が記載されていることである。もしチケットに定価が書いていなかったならば、定義上、ダフ屋稼業は存在しない。ニューヨーク証券取引所で売買されている株式には値段が記載されていないから、大量の株を買い、長期にわたって売り惜しみ、どんなに高値で転売しても、株式ブローカーは「ダフ屋」とは呼ばれない。

なぜコンサートやスポーツイベントの興行主は、チケットに定価を印刷するのだろうか。なぜ、シカゴの先物市場で小麦を売るように、あるいは株式市場で株を売買するように、マーケットが決めた価格でチケットを売るようにしないのだろうか。そうすれば、ダフ屋はこの世から消滅するのに。

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