世論を操る懸念も「偽SNSアカウント」の脅威 正しい情報より伝達が早くて広い「偽情報」

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もう1つ注目すべきは、IRAの偽アカウントがイギリスやヨーロッパに向け、各地のテロ事件に便乗した投稿などで反移民感情をあおり、対立や政治の不安定化を狙った投稿を2016年からしていたことだ。ITや文化などの問題を扱う米『ワイアード』誌の調査で判明した。

IRAの情報戦で悪用された事件の1つが、2017年3月にロンドン市内のウェストミンスターで発生したテロである。自動車を運転していた男は歩行者を次々にはねた後、近くの議事堂敷地内に侵入、持っていた刃物で周囲の人々を襲った。5人が死亡、50人近くが負傷した。

愛国者のアメリカ人を装い、1万6000人のフォロワーを抱えていた「テキサス・ローン・スター」(一つ星は米テキサス州のシンボル)というIRAの作ったツイッターアカウントがある。彼は、ウェストミンスター橋の上に横たわる負傷者らしき人の周りを心配そうに取り囲む人々と、その横を歩くヒジャブを被った女性の写真をテロ事件の直後に投稿した。

そして「イスラム教徒の女性はテロ攻撃を意に介さず、携帯電話を眺めながら死にかけている男性の横を歩み去っていった」と糾弾した。

ツイッター社はアカウントを閉鎖

この投稿はあっという間にリツイートを繰り返し、注目を集め、英大衆紙のデイリー・メールとザ・サンに次々に取り上げられた。デイリー・メールは1面に掲載した。「テキサス・ローン・スター」はテロの犠牲者を気遣うそぶりも見せず、自分が有名になったことをただ喜び、「ありがとう、イギリス人のリベラル諸君」と新聞掲載後にそれぞれツイートした。

ところが、問題の写真は文脈を無視して切り取られたものだった。写真の女性は事件にショックを受け、家族に自分の無事を知らせるためにちょうど電話をかけていたのだ。ザ・サンとデイリー・メールは、翌年にその旨を認めた。

ツイッター社は、「テキサス・ローン・スター」のアカウントを2017年夏に閉鎖したが、当時のフォロワー数は3倍の5万人に膨れ上がっていた。このアカウントは、閉鎖前の2017年5月に発生した英マンチェスター・アリーナの自爆テロ事件でも差別的な投稿を繰り返している。

個人のツイッター利用者だけでなく、大手英メディアも、こうした偽アカウントのツイートを拡散した。ロシアの偽アカウント情報が100回以上英国メディアに引用されていたと、2018年9月の英ガーディアン紙は指摘している。そのほか、BBCやテレグラフもIRAの偽ツイートを引用したことがあり、後に問題箇所をウェブサイトから削除した。

ロシア政府は、2016年の米大統領選のほかにも複数の国の選挙に介入した疑惑を持たれている。スペインの外相と国防相は、カタルーニャ州独立の是非を問う2017年10月の住民投票前に、ロシア政府と民間組織がソーシャルメディアを使って介入した証拠があると主張した。独立への賛成票は9割強だった。独立派の指導者たちは、ロシアの介入が票集めにつながったことを否定しており、ロシア政府も関与を否定している。

2017年11月のロンドン市長主催の晩餐会で、イギリスのメイ首相(当時)はロシアによる複数の選挙介入や外国政府へのサイバー攻撃を非難した。どの選挙かは明らかにしなかったが、「(ロシア政府が)国営メディアを使って偽のニュースや改ざんした画像を広め、西側諸国に不和をもたらし、われわれ政府を弱体化させようとしている」と危機感をあらわにした。

一方、ロシア外務省報道官は、メイ首相の非難は「無責任かつ根拠に欠けている」と一蹴、英国市民の目を国内問題から逸らすために外敵が必要なのだと断じた。

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