世論を操る懸念も「偽SNSアカウント」の脅威 正しい情報より伝達が早くて広い「偽情報」
前述の研究者たちが調べたところ、残留派のボットよりも離脱派のボットのほうが多く、生身の人間のツイート活動に強い影響を及ぼしていた。投票当日、離脱支持のツイートの数が劇的に増えている。
量産されたボットツイートは人々の興味を惹きつけ、8〜9割のリツイートは人間がしていた。投票日前、人間がリツイートしたボットの投稿は離脱派が5割、残留派はわずか2割だった。
米大統領選への関与疑惑のある企業が背景に?
無論、ロシア語のアカウントだからと言って政府のものとは限らない。とは言え、ツイッター社がロシア政府とのつながりを確認しているアカウントが、EU離脱を促す投稿に使われていたとの調査結果もある。そうしたアカウント2752個のうち419個が、EU離脱関連のハッシュタグを使った投稿を3500回していたと、2017年11月、ニューヨーク・タイムズ紙やガーディアン紙らが報じた。
問題のアカウントを作っていたのは、ロシア企業のインターネット・リサーチ・エージェンシー(IRA)だ。ロシア第2の都市サンクトペテルブルクにオフィスを構えるIRAは、偽のソーシャルメディアアカウントを作り、偽情報や社会的・政治的問題に関する煽情的なコメントや画像を投稿する。世論を分断し、特定の票の伸びを抑えることを目指しているとみられる。
IRAは潤沢な資金を持ち、サーチエンジンや画像、翻訳、ITの専門スタッフを抱える。その出資者は、プーチン大統領に近い実業家エフゲニー・プリゴジンだ。2018年2月、米連邦大陪審は、2016年の米大統領選への介入容疑でIRAやプリゴジンらを起訴した。
ただし、イギリスの国民投票に向けて、偽アカウント所有者らの足並みが必ずしもそろっていたわけではなさそうだ。エディンバラ大学の研究者たちがIRAの偽アカウントを分析したところ、EU離脱を促すツイートの7割以上は投票後に行われていた。フェイスブックが2017年末に発表した調査結果でも、IRAはわずか6件のフェイスブック広告しか購入しておらず、それを見た英国内の利用者はせいぜい200人程度だったという。
IT問題を主に扱う米ブログサイト「テッククランチ」は、イギリスの国民投票への介入が5カ月後の米大統領選の練習台であった可能性を示唆している。実際、2016年の米大統領選への介入は圧倒的に大規模であった。
2019年3月、ムラー特別検察官が2016年米大統領選におけるロシア介入疑惑などに関する捜査報告書を発表した。大統領選が終わるまでにIRAのソーシャルメディア投稿はアメリカの数百万もの有権者に見られていたと主張している。
IRAの2752個の偽ツイッターアカウントからは、2016年9〜11月に13万1000件も投稿があった。米大統領選後も含む統計値だが、2015〜2017年、IRAのフェイスブック投稿を目にした可能性のあるアメリカ人の数は、有権者の半数以上の1億2600万人にも及んだ。一方、ロシア政府は米大統領選への介入疑惑もIRAとのつながり疑惑も否定している。
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