地球を席巻した人間を超える生命は生まれるか 生命の進化は自らをデザインする能力で決まる

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例えば多くの細菌は、周囲の液体中の糖濃度を測定する感覚器を持っており、鞭毛(べんもう)と呼ばれるプロペラ型の構造体を使って泳ぐことができる。

その感覚器と鞭毛とをつなぐハードウェアは、「糖濃度感覚器が数秒前よりも低い値を報告してきたら、鞭毛の回転を反転させて方向を変えよ」といった、単純だが有用なアルゴリズムを実装したものかもしれない。

あなたは発話など数え切れない技能を習得しているが、それに対して細菌は大して学習できない。細菌のDNAは、糖の感覚器や鞭毛などのハードウェアのデザインだけでなく、ソフトウェアのデザインまで規定している。細菌が糖に向かって泳ぐのは、決して習得したからではなく、最初からDNAにそのアルゴリズムがコードされているからだ。

もちろん何らかの学習プロセスは存在したが、ある1匹の細菌が生きているうちに起こったわけではない。何世代にもわたるゆっくりとした試行錯誤のプロセスを経て、糖の摂取量を高めるようなランダムなDNA変異が自然選択によって選ばれることで、その細菌の種(しゅ)が進化する、その過程によって起こったのだ。

変異の中には、鞭毛などハードウェアのデザインの改良に寄与するものもあったし、糖を見つけるアルゴリズムなどのソフトウェアを実装した情報処理システムを改良させるものもあった。

細菌に代表されるのが「ライフ1.0」

このような細菌に代表されるのが、私が「ライフ1.0」と呼ぶ生命、すなわち「ハードウェアとソフトウェアの両方が、設計されるのではなく進化する生命」である。

それに対してあなたや私は、「ライフ2.0」、すなわち「ハードウェアは進化するだけだが、ソフトウェアの大部分は設計できる生命」である。あなたのソフトウェアとは、感覚から得た情報を処理してどんな行動を取るかを決定するのに使われる、アルゴリズムと知識全般のことだ。

つまり、友人を見てそれを友人と認識することから、歩いたり読んだり書いたり、計算したり歌ったりジョークを言ったりすることまで、ありとあらゆる能力のことである。

あなたは生まれたときにはこのどの課題もこなせなかったのだから、そのソフトウェアはすべて、われわれが学習と呼んでいるプロセスを通じて、のちに脳にプログラムされたものである。子どもの頃には、あなたが何を学ぶべきかを決める家族や教師によって学習課程がおおむね設定されるが、その後、自分のソフトウェアをデザインする力を徐々に獲得していく。

あなたの学校では学ぶ外国語を選択できただろう。フランス語を話せるようになるソフトウェアモジュールを自分の脳にインストールしたいか、それともスペイン語にしたいか? テニスを習いたいか、それともチェスを習いたいか? シェフになるための勉強をしたいか、それとも弁護士か、あるいは薬剤師か? AIや生命の未来のことをもっと知るために、それに関する本を読みたいか?

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