地球を席巻した人間を超える生命は生まれるか 生命の進化は自らをデザインする能力で決まる

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この柔軟性のおかげで、ライフ2.0は地球を席捲することができたのだ。遺伝的な足枷(あしかせ)から解放された人類全体の知識は加速度的なペースで増えつづけ、言語、文字、印刷機、現代科学、コンピューター、インターネットなど、一つひとつのブレイクスルーが次なるブレイクスルーを可能にしてきた。

このようにわれわれの共有するソフトウェアが文化として加速度的に進化することが、われわれ人類の未来を決める支配的な力となったために、遅々とした生物学的進化はほぼ取るに足らないものとなったのだ。

しかし、人類は今日極めて強力なテクノロジーを持っているが、われわれが知るすべての生命形態はいまだに生物学的なハードウェアの基本的制約を受けている。

100万年生きつづけたり、ウィキペディアの内容をすべて記憶したり、既知の科学を残らず理解したり、宇宙船に乗らずに宇宙飛行を楽しんだりできる人なんて1人もいない。生命がほぼ存在していないこの宇宙を、何十億年も何兆年も繁栄する多様な生物圏に変え、この宇宙の潜在力を発揮させて完全に目覚めさせることのできる人などいない。

このいずれを実現させるにも、生命が最後のアップグレードをしてライフ3.0になり、自らのソフトウェアだけでなくハードウェアもデザインできるようになる必要がある。つまりライフ3.0は、自身の運命をつかさどって、進化の足枷からようやく完全に解放される存在なのだ。

生命の3つの段階を隔てる境界線は少々ぼやけている。細菌がライフ1.0で人間がライフ2.0であるのなら、ネズミはライフ1.1に分類できるかもしれない。ネズミはいろいろな事柄を学ぶことができるが、言語を編み出したりインターネットを発明したりできるほどではない。しかも言語を持っていないので、せっかく学んだことも死んでしまえばほとんど失われて、次の世代に受け継がれることはない。

現代の人間は劇的には進化できない

同様に、現代の人間はライフ2.1と捉えるべきだと言う人もいるかもしれない。人工の歯や膝やペースメーカーを埋め込むなどしてハードウェアを少しだけアップグレードすることはできるが、身長を10倍に伸ばしたり脳の大きさを1000倍にしたりするといった劇的なアップグレードは決してできない。

まとめると、生命が自らをデザインする能力に応じて、生命の進化は以下の3つの段階に分けることができる。

『LIFE3.0──人工知能時代に人間であるということ』(紀伊国屋書店)。書影をクリックするとアマゾンのサイトにジャンプします

ライフ1.0(生物学的段階)――ハードウェアとソフトウェアが進化する。

ライフ2.0(文化的段階)――ハードウェアは進化するが、ソフトウェアの大部分はデザインされる。

ライフ3.0(技術的段階)――ハードウェアとソフトウェアがデザインされる。

138億年にわたって宇宙が進化してきた末に、ここ地球上でその進歩が劇的に加速している。

ライフ1.0は約40億年前に、ライフ2.0(われわれ人間)は約10万年前に登場し、多くのAI研究者が考えるところでは、ライフ3.0は次の世紀、もしかしたらわれわれが生きている間にも、AIの進歩によって誕生するかもしれない。

マックス・テグマーク マサチューセッツ工科大学(MIT)教授

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Max Tegmark

宇宙論の研究者だったが、超知能AIによる人類絶滅の危険性に注目し、近年はAI研究に軸足を移している。2014年に、AIの安全な研究を推進するための非営利団体「生命の未来研究所(Future of Life Institute,FLI)」を共同で設立。2017年に発表された「アシロマAI原則」の取りまとめを同団体が先導した。邦訳された著書に『数学的な宇宙―究極の実在の姿を求めて』(講談社、2016年)があり、数学的存在そのものが、宇宙であるとする斬新な「数学的宇宙仮説」を論じて脚光を浴びた。

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