日本の養豚が「アメリカに侵略」される驚愕事実 日米新安保60年の歩みはもう1つの歴史がある

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そもそも、生きた豚を運ぶという前代未聞の空輸計画を全面的に支援したのが、全米トウモロコシ生産者協会(NCGA)だった。養豚業界ではないのだ。日本にアメリカ式の養豚業を植え付けることで、飼料としてのトウモロコシの市場を日本に求めたのだ。豚が必要とする飼料穀物ならば、暑い太平洋上も支障なく船で運べる。

当時の1950年代後半のアメリカは、第二次世界大戦中にはじまった食料増産体制の継続のあおりを受けて、穀物の生産余剰が続いている時期だった。戦後復興の欧州支援のはずが、もはや必要なくなってあふれていた。そのことは以前にも書いた(『日米安保60年で祖父の轍を踏む安倍首相の現在』)。

日米安全保障条約の改定に、経済協力事項が盛り込まれたことから、日本は戦後の高度経済成長をはじめた。工業を特化した日本は、生産性の高い工業製品をアメリカの市場に売る一方で、アメリカからは大量生産される安価な農産品を買い付ける。この対米輸出入型の貿易構造が功を奏したとされる。アメリカ側にしてみれば、余剰穀物の捌け口を日本に向けることができる。

しかも実際の調印時には、35頭の豚が空を飛んでいたのだ。いわば”豚の尖兵”による既成事実を着々と作り上げていたことになる。

『侵略する豚』(書影をクリックすると、アマゾンのサイトにジャンプします)

あれから60年。海外依存を高めた日本の食料自給率は、2018年には37%にまで低下している。そのうち、豚肉の自給率も徐々に下降し、同年には48%になる。あとは輸入に頼ることになるが、そのうちの約3割は最大の輸入相手であるアメリカが占めていて、もっとも多い。

アメリカ産と言えば、すぐに牛肉を連想しがちだが、1990年代から対日輸出に重点を置いた豚肉の国際取引が急成長し、今ではアメリカが世界一の豚肉輸出国に成長した(その経緯は拙著『侵略する豚』に詳しい)。

その最大の取引相手国が日本である。

生きた豚を送って餌を買わせるつもりが、今ではチルドや真空パックといった保管、輸送技術の向上もあって、生産した豚がそのまま海を渡ることができるようになった。

日米新安保60年はもうひとつの歴史がある

おじいさんが調印した日米新安保条約で、欧州向けに売れ余ったアメリカ産のトウモロコシを日本が買うことになった。空輸された豚がその素地を開いてくれた。昨年の日米貿易協定にあわせて、その孫の安倍晋三首相は米中貿易戦争のあおりで中国が買わなくなったトウモロコシを日本が引き受けた。

そして日米貿易協定で関税の下がった豚肉がそのまま日本に流入してくる。アメリカが教えた養豚業が、今度は潰されると嘆く。自給率は確実に下がる。

日米新安保の60年とは、豚の侵略にまつわる、そうしたもうひとつの歴史を持つ。

そのことをほとんどの日本人が知らない。

青沼 陽一郎 作家・ジャーナリスト

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あおぬま よういちろう / Yoichiro Aonuma

1968年長野県生まれ。早稲田大学卒業。テレビ報道、番組制作の現場にかかわったのち、独立。犯罪事件、社会事象などをテーマにルポルタージュ作品を発表。著書に、『オウム裁判傍笑記』『池袋通り魔との往復書簡』『中国食品工場の秘密』『帰還せず――残留日本兵六〇年目の証言』(いずれも小学館文庫)、『食料植民地ニッポン』(小学館)、『フクシマ カタストロフ――原発汚染と除染の真実』(文藝春秋)などがある。

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