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ついつい食べ過ぎる断食月
傾き始めた日差しに「王家の谷」は陰影を深くした。エジプト中部ルクソール。ナイル川西岸に住むアッザーフさんは、古代遺跡のすぐ隣りで畑を耕すお百姓だ。
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帰宅したアッザーフさんはもどかしそうになん度も時刻を確認し、やにわにコップに水を注いで飲み干した。庭に面した土間にはご馳走が運ばれてくる。集まった家族や親戚たちもつぎつぎ水を回し飲み、デーツ(なつめやしの実)を食べ、目の前の豆の煮込みや鶏スープに手をのばし、焼いたパンを食い散らかす。交わす言葉もそこそこに、ひたすらガシガシ食べる。
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圧倒されつつ食膳に加わった。うまい。特に自家採れ野菜の滋味は、エジプトで食べた料理の中で最も記憶に刻まれる味覚だった。こりゃ食がすすむ。アッザーフさんもモグモグしながら言う。
「ラマダンになると体重が増えてしまいます」
イスラム暦9月になると、イスラム世界では1カ月間の「ラマダン(断食月)」が始まる(今年は5月15日から)。「断食」といっても1日じゅう続けるのではなく、飲食を断つのは日の出から日没までの間だ。夜明け前にガッツリ食べ、日中の十時間以上なにも口にしない。だから、どうしたって日没後の食欲は旺盛になる。普段に比べて特別なおいしい料理が並び、それをしこたまドカ食いするラマダンの毎日。断食月とは食べないのではなく、むしろより食べ肥え太る期間らしい。
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