ラマダンで太るイスラム教徒の知られざる食 豚を食べる民族との「共生」とテロの狭間で…

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カイロの「ゴミの町」に集まる人間が捨てた膨大な食品関連ゴミ(写真:木村聡)

そんなゴミの町の裏手に中東最大級の広さを持つ洞窟教会がある。周辺のコプト教徒以外に来訪者も多い観光名所で、週末の教会前はピクニック感覚で訪れる信者であふれていた。そして、彼らが去った跡を見ると食い散らかし捨てられた大量のゴミ。ラマダンになると豚の”餌”が増えるとザッバリーンも言う。宗教や食べるものが変わっても、人間の食べ残し方はそう変わらないらしい。

ラマダン期間は「テロの季節」

エジプトで生きるクリスチャンは圧倒的少数派である(写真:木村聡)

昨年、ラマダンに合わせたと見られるテロが世界各地で相次いだ。イギリス・マンチェスターで自爆テロ22人死亡、エジプト・ミニヤでバス襲撃29人死亡、アフガニスタン・カブールで爆発90人死亡などなど。イスラム教徒の信仰心が高まることにつけ込み、近年、過激派組織「イスラム国(IS)」はラマダン中に異教徒などへのテロ攻撃を呼びかける。日本人を含め20人が犠牲になった2016年のバングラデシュのテロもラマダン最後の金曜日だった。

ISがらみのテロはエジプトでも増えている。そして、エジプトにおいて攻撃対象のひとつはコプト教徒だ。再選したシシ大統領はイスラム組織「ムスリム同胞団」をテロ組織と見なすが、イスラム過激派はこれに反発し、同時にシシ政権を支持する異教徒コプトへもテロを仕掛ける。しかもソフトターゲットである一般市民を狙って。コプト教徒のザッバリーンが、ラマダンがない「豚の場所」でしみじみ話す。

「ラマダンにテロを起こすと注目される。テロは怖い。だけどラマダンが悪いのではない。イスラムと私たちは共存できるはずです」

みなで食事を分かち合うのが、聖なる月・ラマダンの習慣(写真:木村聡)

ちなみに、コプト教徒にも断食の習慣がある。クリスマスやイースター(復活祭)の前にそれぞれ数十日程度の断食を行う。合わせればイスラム教徒のラマダンより長い日数になるが、コプトの断食は肉類や乳製品といった限定された食品を摂らなかったり、人によって実施時間もまちまちらしい。信仰の発露としての宗教行為に違いはないが、ルールがきっちり決まっているラマダンに比べ、コプトのそれはやや自由度が高い。

食べたり、食べなかったり、食べ過ぎたり。宗教的マジョリティもマイノリティも、ここでは神との絆を感じる食行為がある。

木村 聡 写真家、フォトジャーナリスト

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きむら さとる / Satoru Kimura

1965年、東京都生まれ。新聞社勤務後、1994年からフリーランス。国内外のドキュメンタリー取材を中心に活動。ベトナム、西アフリカ、東欧などの海外、および日本各地の漁師や、調味料職人の仕事場といった「食の現場」の取材も多数。写真展、講演、媒体発表など随時。

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