動き出したプーチンによるポストプーチン戦略 異例の年次教書演説と突然の内閣総辞職

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であれば、国家評議会か安全保障会議を握り、大統領、政府への影響力を維持するという手法もある。ただ両機関とも現在は大統領が議長を務めている。大統領以外のものがトップに立つことはあまり考えにくい。

筆者が注目しているのは、今回メドベージェフのために新設した「安全保障会議副議長」というポストだ。与党党首と常任の安保会議副議長を兼ねれば、与党として政府を監督し、常任の安保会議副議長として実質的に安保会議を握ることで、力の省庁を監督できるし、国の戦略的な方向性を定めることもできる。同じ理由で国家評議会を足場とすることもできるだろう。ただし、この場合、「副議長」という名前はよくないので、議長と同格の何か別の名称を考えるかもしれない。

いずれにしても、中国と異なり長老支配の伝統のないロシアにおいてプーチンといえども退任後に影響力を保つ道を定めるのは難しいことだ。

プーチンの具体的な後継者については現時点ではわからない。

ミシュスチン指名を受けて一つの可能性が出てきた。ミシュスチンが首相としても実務官僚として有能さを発揮すれば、そのままミシュスチン内閣を継続し、新大統領にはプーチンの信頼する安全保障と外交に精通した後継者を据える。経済に集中する首相と外交安全保障に集中する大統領という新たな二頭体制を築き、プーチンは何らかの役職について外から監督するという形だ。ただ、いずれにしても後継が見えるにはまだ時間がかかる。

加速する政治プロセスと早期退任の可能性

早ければ4月にも行われるプーチン憲法改正の国民投票は、事実上ポストプーチンに向けてプーチン大統領の信任を問うものとなる。プーチンとしては2018年大統領選挙と同じくあるいはそれ以上の圧倒的な支持を狙うだろう。現時点では2021年9月下院議会選挙、2024年3月大統領選挙というスケジュールだが、国民投票で圧倒的な支持を得られれば、プーチン大統領はおそらくこのプロセスを早め、加速させるだろう。

筆者はプーチンが来年に予定されている議会選挙を早期に実施し、2024年を待たずに早期退任に踏み切り、ポストプーチン体制への移行を早める可能性を排除しない。ロシアの政治プロセスは加速している。ポストプーチンの問題は2024年問題といわれるが、もしかしたらそれは2022年問題あるいは2021年問題になるかもしれない。ロシアはプーチン自身によって大きな変革期に入った。

石川 一洋 ジャーナリスト

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いしかわ いちよう / Ichiyo Ishikawa

NHK解説委員。近畿大学客員教授および総長特別補佐。1982年東京大学文学部ロシア語ロシア文学科卒。同年NHK入局。秋田、青森の放送局を経て、1988年報道局取材センター国際部記者。1992~96年モスクワ支局、96年から国際部デスク。1999年のキルギス日本人拉致事件や2001年の911同時多発テロ以降のアフガン北部タジク取材などを指揮。2002~07年モスクワ支局長。2007年NHK解説委員、2010年NHK解説主幹。2017年NHK退職後も解説委員として「時論公論」、「おはよう日本・ここに注目」「キャッチ!世界のトップニュース」に出演中。ロシア・旧ソビエト連邦、安全保障などの専門家として講演多数。東京大学EMP講師、サンクトペテルブルク経済フォーラムやウラジオストク東方フォーラム等のモデレーターも務める。

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