動き出したプーチンによるポストプーチン戦略 異例の年次教書演説と突然の内閣総辞職
プーチンは更迭したメドベージェフを安全保障会議の副議長というポストに据えた。新設したポストで担当は国防である。プーチンがメドベージェフを後継とする可能性はかなり低い。エリート及び国民のメドベージェフへの評価は否定的で、プーチンもそれを考慮するからだ。
ただメドベージェフはプーチンにとって他の誰も持っていない価値、つまりすでに1期大統領を務めているという価値がある。ロシア憲法には大統領は「連続2期を超えて務めてはならない」という規定がある。プーチンは連続というこの規定を利用して2012年復帰したわけだが、今回の憲法改正ではこの「連続」という言葉を排除する改正を提案する。「大統領は2期を超えて務めてはならない」。プーチンが2024年に退陣すればその後大統領に復帰する可能性はなくなる。
メドベージェフもすでに大統領を1期務めているので、可能性は1期に限定される。つまり、まさにメドベージェフだけが"つなぎ"の大統領となれるのだ。メドベージェフに形だけ1期任せてその間に本格的な後継を育てるという方法だ。プーチンは恩義に厚い親分だ。大統領としてのメドベージェフにはいろいろ問題もあったが、プーチンを裏切らなかった。それに応えなければならないとプーチンは思うかもしれない。
しかし、筆者はその可能性はかなり低いとみている。2011年夏、プーチンは外交で強い姿勢を示せないメドベージェフに「このままでは国が亡びる」と言い渡して大統領に復帰した経緯があり、今の厳しい国際情勢の下でつなぎの大統領を据えている時間の余裕はない、と考えるのではないか。
憲法改正で議会の権限を強化、大統領権限を縮小
プーチン大統領が提案した憲法改正は、ロシアの政治システムを大きく変えるものだ。
大統領任期の問題については年次教書演説では曖昧であった。だが、年末の内外記者会見でプーチン自らが憲法で改正すべき点として「大統領は連続2期を超えて務めてはならない」から連続を削除すると述べた。下院議会に送った憲法改正に関する草案でも「連続」を削除している。自らの3選の可能性を排除するものだ。
しかし、憲法改正で重要な点は別にある。権力のバランスを大きく変える点だ。
今のロシア憲法は血の争いを経て制定された。1993年、大統領制の確立を目指すエリツィン大統領と、ソビエト以来のソビエト・最高会議の優越を主張する議会とが対立し、ついにモスクワにおける武力衝突を招いた。エリツィンは戦車による大砲でハズブラートフ最高会議議長・ルツコイ副大統領というかつての盟友の立てこもった最高会議を制圧。12月の国民投票によって大統領が議会に優越する今のロシア憲法が制定された。
この憲法を最大限活かして垂直統治システムと呼ばれる中央集権体制を築いたのがプーチンである。そのプーチンが、議会の権限を強化して大統領権限を縮小するという、権力のバランスを大きく変える改正を提案したのだ。
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