イラン司令官暗殺を非難するロシアの論理と心理 「勢力圏」「被害者意識」で考える大国の地政学
ロシアの二枚舌?
今年1月3日、イラン・イスラム革命防衛隊(IRGC)のソレイマニ司令官(IRGCの介入部隊である「クッズ部隊」の司令官として知られる)がアメリカ軍の空爆によって暗殺された。同8日、IRGCは報復として在イラク米軍基地に対して弾道ミサイルを発射し、緊張が高まった。2010年代に続き、2020年代の世界もまた波乱に満ちたものとなることを予想させる幕開けであったと言える。
こうした状況に対するロシアの反応は、おおむね従来の路線を外れるものではなかった。5日にイランのザリフ外相と電話会談したロシアのラブロフ外相は、アメリカによるソレイマニ司令官暗殺を「国際法違反」であると非難し、ロシア国防省も同様に非難声明を発出した。
また、ロシアは昨年末にも中国・イランとの合同海軍演習を実施したほか、イランによるミサイル攻撃直後にはプーチン大統領がシリアを電撃訪問(2015年に次いで2度目)するなど、中東においてアメリカを牽制する姿勢を顕著に示している。
このようなロシアの振る舞いは、一見すると二重基準とも映ろう。2014年にウクライナへの軍事介入に踏み切り、ウクライナの主権を侵害したのはロシア自身である。
また、ウクライナ以外にもロシアはジョージア(グルジア)やモルドバといった旧ソ連諸国にも軍事介入を行い、法的親国の支配が及ばない「未承認国家」を作り出してきた。こうした行為が許されるならば、ロシアにアメリカを非難する資格はない。
ただ、これを単にロシアの二枚舌と片付けるべきでもないだろう。同意できるかどうは別として、そこにはロシアなりの論理が存在する。この点を読み解くことでロシアという国家との付き合い方を筆者なりに考えてみたのが、昨年上梓した『「帝国」ロシアの地政学「勢力圏」で読むユーラシア戦略』である。
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