動き出したプーチンによるポストプーチン戦略 異例の年次教書演説と突然の内閣総辞職

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憲法改正で1993年以来の大統領制を変革するという(写真:President’s website)

代わって首相となったミハイル・ミシュスチン連邦税務庁長官は日本でいえば国税庁長官だ。2010年の就任以来、ロシア版のe-Taxシステムの導入やデジタル課税など徴税業務の改革を進めてきた。スマートフォンからも税が収められるようにするなど納税の簡素化を行い、悪名高い納税時期の行列をなくした。

また自らテレビに出演して国民の質問に積極的に答えるなど、税務署の敷居を低くして納税意識の低いロシア国民の意識改革に取り組んだ。プーチン以外では珍しく国民とコミュニケートできる行政官だ。税務当局としての捜査機関を握ってきた凄味もある。しかし本籍は治安機関出身者ではなく文民だ。

プーチンはなぜサンクトペテルブルク・グループでもシロビキ(治安機関出身者)でもないミシュスチンを指名したのか。プーチンがミシュスチンに与えたミッションは、ナショナルプロジェクトを実行して、メドベージェフ内閣で失墜した政府に対する国民の信頼を取り戻せということだろう。

プーチンは少子化対策のために家族への巨額のバラマキを計画している。正しい政策かどうかは別にして、そのバラマキによって経済を刺激して成長率3%を2021年にも達成したいとしている。徴税官としての有能さはよくわかったから、その能力を活かして、俺の言うとおりに、官僚的な手続きを排除して、国民に効率よくばらまけ、ということだろう。

ミシュスチンは有能だがポストプーチンではない

では、誰がポストプーチンの大統領になるのか? そしてポストプーチンにおけるプーチンの立場は? その問いへの明確な答えはまだ見えていない。

ミシュスチンのミッションはナショナルプロジェクトの実現にまい進することで、後継候補ではない。筆者は最初、2004年のフラトコフ、2007年のズブコフと同じ"つなぎ"の首相としての役割を担うのかと思った。彼らは政治的には無名なテクニカルな首相だった。

だが、ミシュスチンはちょっと違う。プーチンはまさに有能な実務家として、彼の双肩にナショナルプロジェクトを委ねたのだ。今後のミシュスチン内閣がどのような成果を上げるかにもよるが、もしかしたらミシュスチンは本格的な首相でポストプーチン体制でも首相の任を継続させる意図があるのではないか。

では大統領の後継は誰なのか。プーチンが考える後継の条件は何だろうか。エリツィンに抜擢されたころの自分に照らし合わせているかもしれない。愛国者であること。安全保障と経済が分かること。大統領府と政府の少なくとも1つの要職を経験し、ロシアの権力の仕組みを理解し、動かせること。そして大統領として国民と対話ができて支持が得られること。

かつてプーチンが2期目の任期が終わり、2008年に向かう中でメドベージェフとイワノフを副首相に登用して競わせたのと同様に、新内閣でプーチンが有望とみる中堅若手を重要閣僚に抜擢して競わせるかもしれない。私は、中央銀行総裁のエリヴィラ・ナビユリナや社会政策担当の副首相タチアナ・ゴリコワの可能性もあると考えてきた。この2人はプーチン好みの有能な官僚でしかも忠実だ。寝首をかくリスクはない。雷帝のあとは女帝で雪解けのイメージを出さないといけないだろう。これは半ば冗談だか。

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