睡眠薬で高齢者を「寝かせきり」病院・施設の闇 人手不足で現場は疲弊、危険性が伝わらない

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患者の身体拘束が問題になって久しいが、患者をベッドに拘束する代わりに、薬剤によって鎮静化させる事実上の拘束は、多くの病院で行われているようだ。ネットなどでは「ドラッグ・ロック」(薬剤による拘束)という言葉も散見される。

全日本病院協会は「身体拘束」の定義に、患者の手足を縛るなどの拘束に加えて「向精神薬の多剤併用」を挙げている。向精神薬とは精神・神経に作用する薬剤の総称だ。このドラッグ・ロックのために、主に使われるのがベンゾジアゼピン系薬剤なのだ。

疲弊する現場が“拘束”を促す

その全日本病院協会が2016年に公表した「身体拘束ゼロの実践に伴う課題に関する調査研究事業」によると、向精神薬の多剤併用は施設全体の27.3%が「実施することがある」と回答している。なかでも、急性期を含めた一般病棟に限れば、これが58.6%に上る。患者の身体拘束が問題視されたことが、ベンゾジアゼピン系薬剤の大量使用に結びついているとしたら本末転倒だ。

こうした薬剤による身体拘束が横行する背景に、人手不足がある。厚生労働省所管の福祉医療機構の2018年度調査によると、特養ホームの72.9%が看護師や介護スタッフが足りず、このうち12.9%は人材不足で利用者の受け入れを制限しているほど深刻だ。

国の方針で入院患者の在院日数短縮が進められているが、その一方では1人の看護師が担当する患者数は増え続けている。療養型病院や高齢者施設では、治療が必要な患者まで受け入れなければならなくなっているほどだ。疲弊している医療・介護現場に、ベンゾジアゼピン系薬剤による事実上の身体拘束は問題だ、と突きつけたらどうなるか。その答えを誰も持っていないところに悲劇はある。

1960年代に開発されたベンゾジアゼピン系薬剤は、欧米などでは副作用が問題となり注意喚起されてきた。日本老年医学会が、「高齢者の安全な薬物療法ガイドライン」のなかで、過鎮静や認知機能や運動機能の低下などを「薬剤起因性老年症候群」と名付けて注意を呼びかけたのは2005年だ。2015年には、その改訂版を公表している。

ところが、薬剤の安全性を担う厚労省が、この問題に取り組み始めたのは2017年だ。学会のガイドラインでの指摘からも12年もの時間が経っている。高齢者医療の「ポリファーマシー」が取り沙汰されていることをきっかけに、その対策を協議するために「高齢者医薬品適正使用検討会」が2017年4月に設置された。

ポリファーマシーとは、多くの薬剤を処方しているために副作用などが起きやすくなっている状態のことを指す。高齢者は複数の診療科を受診することが多いから、薬剤の種類も増えていく。6種類以上の薬剤を服用していると、有害事象の割合が高くなるという研究もある。

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