「の」でつなぐ異色絵本がオフィス街で売れる訳 「の」という単語が持つ無限のパワーとは

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主人公がいなければ、起承転結もないんですけど、でも僕はこれも物語の1つのあり方かなとは思っています。「の」がつないでいく物語。読んだ後で、何か現実ではない、自分が知らない別世界があって、本を閉じて帰ってくるという、それも物語だと思う。主人公がいなくても、物語はできるっていうことじゃないですか。そもそも、表紙の女の子が旅をしたのかどうかもわからないですよ。

「受け身」じゃないエンターテインメント

──読み手に何かを考えさせよう、その「何を?」も考えさせよう、という意図を感じたのですが。

読者の方にこうさせようというのはないです。こんなんだったらいいなとか、変な気持ちになってくれたらいいなとかはあるんですけど、こうさせたいという“我”みたいなものはないです。

『の』(ⓒjunaida/福音館書店、書影をクリックするとAmazonのサイトへジャンプします)

ただ世の中、あまりにも全部受け身で得られるエンターテインメントが多いので、そうじゃないものを作ろうというのが根っこにはある。受け手側が自分のほうから寄っていかないと、本当の意味で楽しめないというものを。実際そういうほうが楽しくないですか? 

──「の」がつなぐ人や物や場所や情景を数えてみたら、全部で150もありました(笑)。子どもには結構難しい言葉も出てきて。

全然ね、子どももわかってくれてますよ。例えば「雷鳴」なんて難しいかなと思ったんだけど、編集者と話してちゃんと入れることにしました。ちょっと背伸びするような、知らない言葉が1つ2つあるほうが絶対面白いから。

読み手に対しては、僕は大人も子どももまったく分けて考えてないです。本当に面白いと思うものは大人も子どもも関係ないんです。こういうのは子どもに、こういうのは大人にって分けて考えちゃうヤツよりも、そんなの関係なしに「これは面白い」と思うものを作ったら絶対楽しい。大人だって自分の中にある子どものときの感覚が反応して面白がるものもあるし、大人である自分が反応して面白がるものもある。

書店員の方が、お客さんの反応を見ていると、子どもも大人も同じところで面白がってる気がする、って教えてくれたんです。それ、すごくうれしかったです。描き手としては、どんな感想でもいい。何か思ってくれたんだったら、それで十分です。

中村 陽子 東洋経済 記者

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なかむら ようこ / Yoko Nakamura

『週刊東洋経済』編集部記者

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