経営危機の「女子校」を一変させた校長の手腕 武蔵野大学中学・高校を変えた「日野田直彦」
最初の半年は生徒、教員、保護者と少しずつヒアリングを重ね、そのたび、自身の想いや考えも伝えながら、できることから徐々に変えていった。「いきなり大きく変えようとしても抵抗するのは人間として正常な反応。それは、どうしても今までしてきたことを否定されたと感じてしまうためです。だから、丁寧に話し合いを積み重ねて少しずつ変化させ、気づいたら変わっていた、というように」。
例えば着任して1カ月後から、高1の英語に民間企業と連携して作るオリジナルの『TOEFL対策講座』をスタートさせた。この講座に協力するImaginEx社(神奈川県川崎市)代表の町田来稀さんは、長野県軽井沢町に日本初の全寮制インターナショナルスクールとして誕生した「UWC ISAK Japan」の立ち上げメンバー。
世界40都市、7000人以上にワークショップを行ってきたスペシャリストだ。また現在、財団法人「活育教育財団」のメンバーとして、サマーキャンプや新しいスタイルの学校立上げに向かって動き出している人でもある。
教員の意識も変化
TOEFL対策と銘打っているが、英語のスキルアップに重きは置いていない。実際に取り組んでいるのはマインドマップ作成、プレゼンテーションやグループワーク、英語のエッセー作成などで、自分と他者の理解や挑戦と失敗の大切さを体感する授業になっている。
同時に、同校の教員も参加して教育や授業のスタンダード、最先端のワークショップ手法を学んできた。
「日本の先生は優秀で、いい先生ばかりだから、いいと思ったことは取り入れてくれる。校長がいきなり、これをしろ、って言ったら反発するだろうけれど」。こうして徐々に前例にとらわれない授業スタイルはすべての学年、ほかの教科にも広がりつつある。
教員の意識も変わってきている。一部の教職員の会議でピザパーティーなども企画しながら、徐々に心のハードルを下げ、安心して意見を出し合える環境を作っていった。「心理的安全性が担保された環境でなければ、自由な意見や想いを伝えることはできない」(日野田校長)。日々の授業で困っていることや悩みはホワイトボードに書き出し、教員同士で共有する。外部の人の意見も積極的に受け入れる。
「日本人ってフィードバックを受けるのが苦手でしょう。批判されているような気がするからだと思います。でも弱点や失敗を隠してお互いにマウンティングするより、挑戦と失敗を繰り返して、他者からフィードバックを受けるほうが物事は進んでいく。
だから“正の(ポジティブな)フィードバック”っていちばん大事だと思うのです。そのため、私はつねに“Yes and ……”の答え方を心がけています。人の意見を否定せず、まずは受け取ってみる。そしてそれをどうしたらよりよい意見になるか、を話し続ける。『いかがなものか』といったような抽象的な言葉で指摘する人は多くいますが、それは場の雰囲気を悪くするだけ。いつまでたっても問題は解決しません」。
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