日本が「失われた20年」から脱却する3つの理由 人件費、GDP、外国人保有比率から見えること
ここでよく混同されがちなのが「生産性」と「収益性」の概念です。収益性というのは、付加価値額を株主にいちばん手厚く配分することで上がります。一方で、生産性というのは分子が付加価値額ですから、人件費を削ってしまうと伸びません。
人件費と営業純益の付加価値比率の推移を比べてみましょう。従業員の取り分が頭打ちになって、株主の取り分が増えてきています。それがまさに「失われた◯◯年」にあたる時期と重なっています。この分配を変えなければ新たに成長することは難しいでしょう。
――企業そのものには体力があるように思われます。
山本:企業はよく「現金を貯め込みすぎだ」といわれていますし、「株主への配当を増やせ」という要求も高まっています。消費性向を見てもなかなか盛り上がってきません。給与所得が伸び悩んでいたというのは実感としても持っていますね。
北野:従業員の消費性向と株主の消費性向を比べると、従業員の消費性向のほうが高いのに、その所得を減らして株主の分を増やすと、全体として経済成長しなくなるということがいえます。
よく「貯蓄から投資へ」と言われていますが、それが必要なのは個人ではなくて企業なんです。日本企業はなかなか投資せずに貯蓄ばかりしている。それはなぜなのか。求められるハードルが高すぎるのではないかなと思っています。今は、7~8%のROEを達成しないと経営者失格と言われてしまいます。そうなると、いたずらに現金を貯め込むことになってしまうということです。
「崩れたバランスを取り戻そう」という流れに注目
ではなぜそんな高いハードルができてしまったのでしょうか。営業純益対付加価値額と、外国人の保有比率です。1990年代後半から外国人の保有比率が高まるにつれ、要求が高まってきたということがいえます。
2014年に経済産業省のプロジェクトが発表した「伊藤レポート」によると、グローバルな機関投資家が日本に要求する資本コストはだいたい7%と示されています。しかし、問題なのは、その7%という水準が日本において本当に適正なのかどうかということです。
適正だったら問題はないのですが、おそらく高すぎたのでしょう。そのために、日本では投資が生まれずに貯蓄超過になり、仕方がないから財政赤字が膨らむというように、資本コスト面でブレーキがかかってしまったから、金利をいくら下げても景気が加速しないのです。こうして、1990年代後半から日本の財政と金融政策の持続可能性がどんどん失われてしまったのです。
山本:私は『会社四季報』を通じて企業分析を行っていますが、今後も人件費の動向には注目していきたいと思いました。
北野:いま世界では崩れたバランスを取り戻そうという動きが出てきています。こうした動きは20~30年サイクルであるので、2020年だけではなく、次の10年、20年はご説明したようなバランスを回復する動きが続いてくるのではないかと考えています。
後編『会社四季報』の山本直樹編集長が徹底解説!「2020年の企業業績見通し」
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