ぶっちゃけ、ネットで政治は変わるのか? 家入流選挙が再定義した「対話の政治」

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ネットは票にはならない

とはいえ、ネットはしょせん手段であって、選挙での目標は当選ラインを超える得票だ。家入氏は一部メディアで主要候補扱いされたものの、5番手の8万8936票。4番手の田母神俊雄氏(61万0865票)に遠く及ばなかった。話題を振りまいた割に得票が伸びず、常見陽平氏などから厳しい批判をされた。

“惨敗”の理由は明白だ。家入氏は選挙戦中、渋谷駅前のイベントを除き、ほとんどリアルでの街頭活動を行わなかったことで、ネットを使わない層にリーチできていなかった。結局、ネットを駆使しても勝ち残っている政治家は、ネットとリアルの融合がしっかりしている。

代表的なのは米国のオバマ大統領だ。2012年の選挙では、ビッグデータを駆使したことが報道されているのを覚えている読者もいるだろうが、ウェブマーケティング風に言うなら、あくまでリアルでのコンバージョン(得票)に至る道筋を明確に描いている。たとえば、「あの地域は民主党員が多い」という分析が出たら、運動員が重点的に戸別訪問する(米国では合法)といった具合に、ネットとリアルが融合している。

歴史的大雪の中、渋谷駅前で敢行した街頭演説。リアルへの動員に課題を残す

「ネットは運動員の獲得には大きな力になるが、票にはならない」。以前から、こう説くのは、ブロガーとしても知られる音喜多駿・都議会議員(みんなの党)。そう語るだけに彼のネット⇔リアルの使い分けは目を引く。昨年6月の都議選出馬時は29歳。自営業者の家庭に生まれ、組織も知名度もなかったが、選挙準備活動ではネットを駆使。後ろ盾がない新人候補はポスター張りなどのボランティアの確保に苦労するが、ブロガーとして若者に知名度があったことを生かして400人を確保。その一方で下町情緒のある北区の地域性を鑑み、選挙戦は朝から晩まで街頭演説を精力的にこなすなど、トラディショナルな地上戦を徹底したことで初当選を勝ち取った。

ECサイトなど、ウェブマーケティングの仕事をしている方なら、「O2O」や「オムニチャネル戦略」といった言葉があるように、ネットとリアルとの連動性の重要性は認識しているだろう。ましてや「選挙」という名のマーケットは、相対的にネットを使わない中高年が顧客マジョリティだ。家入氏の挑戦は今回「失敗」に終わったが、大胆な実験を積み重ねることで、ネットの利用率が上がっていく5~10年後の「成功」につながるかもしれない。読者の皆さんのような、ビジネスとネットのリテラシーが高い若者たちの知見が、政治側から求められる時代は目前だ。

新田 哲史 広報コンサルタント/コラムニスト

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にったてつじ

1975年生まれ。読売新聞記者(社会部、運動部等)、PR会社勤務を経て2013年独立。企業広報のアドバイス業務の傍ら、ブロガーとして「アゴラ」「ハフィントンポスト」にて評論活動を行う。2013年の参院選、14年の都知事選ではネット選挙案件を担当。東洋経済オンラインではネット選挙の記事を寄稿し、野球イノベーションの連載を企画した。

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