「発酵食品」がいま再び脚光を浴びているワケ ブームを支えるのは「健康効果」だけではない

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健康と医療問題は国家の重要な施策になっていて、そんな中でもバランスのいい食事が奨励されている。健康をつかさどるには適度な運動、野菜たっぷりの料理がよいとされているのだが、それと並んで発酵食品もクローズアップされているというわけだ。

グローバリゼーションと発酵の未来

フランス、イタリアを中心にチーズ輸入を手掛けるのが東京都港区愛宕に本社のある「フェルミエ」。会社を立ち上げた本間るみ子さんは、早くから現地のチーズ工房を訪ねる旅を毎年実施してきた。フランス、イタリアでは、EUの統合、グローバリゼーションの影響で、地域ならではの小さなワイナリー、チーズ工房などが存続できない危機も生まれた。

そんな中、工房や畑や生産の工程を味わうというエノガストロノミーが生まれ、そこから地域ならではの食を味わう体験型の観光スタイルが広がった。小さな生産者のワイン、チーズが世に知られ、経済的にも成り立つ形が生まれた。「フェルミエ」の活動から日本にも海外の仕組みが伝わり、今では国内でもチーズ生産を牧場で行い、見学者が体験できる工房も増えている。

磯沼ミルクファームは家畜福祉(アニマルウエルフェア)の考えを取り入れた牧場。乳しぼり体験教室、チーズ作り体験教室なども行う(写真:磯沼ミルクファーム)

見学体験できる牧場として知られるのが、東京・八王子にある「磯沼ミルクファーム」。ジャージー牛からプレミアムなヨーグルトを製造販売している。ここでは牧場見学や乳しぼり、料理体験ができる。これらは「酪農教育ファーム」と呼ばれる。もともとはフランスで始まったもので、食の現場がわからなくなった消費者に牛からミルクが生まれチーズになることを伝えるために生まれた活動。日本でも独自に広まり、今では全国289牧場にもなる。

体験型の施設は、日本酒やみそなどの蔵を見学に開放しているところも増えている。

醸造・発酵では、都内の有名デパートで販売され、著名料理家がこぞって使っている商品を扱う老舗の伝統食品の担い手が作ったユニット「HANDRED」がある。トップレベルのメンバーで、若手ならではのプロモーションを仕掛けている。

参加しているのは、長野県諏訪市の宮坂醸造(清酒)、和歌山県御坊市の堀河屋野村(しょうゆ・みそ)、京都府宮津市の飯尾醸造(米酢)、岐阜県加茂郡の白扇酒造(みりん)、神奈川県小田原市の鈴廣かまぼこ(かまぼこ)、石川県加賀市の丸八製茶場(茶)だ。チームでデパートへの出店も行っている。連携したサイトには英語対応のムービーもあって、具体的に生産工程がわかるようになっている。

飯尾醸造は棚田で酢の原料となる稲を栽培し、米の収穫体験や蔵の見学も行っている。鈴廣かまぼこは、かまぼこづくりの体験や、レストランも運営している。丸八製茶場は、金沢・東山に茶屋を開き、和菓子と茶とまち並みを融合させる展開をしている。

実は発酵ブームとはいうが、しょうゆ、みそ、漬物、日本酒など、日本伝来の発酵食品は、食習慣の変化から使用量・消費量ともに年々減っている。今後も人口減で、増えることはないだろう。そこで輸出に力を入れ、日本食ブームもあってみそ、しょうゆ、日本酒は伸びている。インバウンドの増加は、観光客に体験を通し素材の本物を伝えることで付加価値を高めているともいえる。

逆に輸入でのワイン、チーズなどの海外からの発酵食も増えてはいるのだが、それらが日本の発酵食と相互に刺激しあい、より豊かな食生活を生み出しているともいえる。発酵は、未来にむけて、今、一層、輝き始めている。

(文/金丸弘美)

《PROFILE》
金丸弘美(かなまる ひろみ)
/食環境ジャーナリスト、食総合プロデューサー。食からの地域再生や食育、食のワークショップなどをテーマにした全国各地の新しい取り組みを、運動と実践と出版を通じて広く伝えている。
「東京人」編集部
とうきょうじんへんしゅうぶ / Tokyojin

都市出版が毎月3日に発行する1986年創刊の月刊誌です。「都市を味わい、都市を批評し、都市を創る」をキャッチフレーズに、歴史・文化・風俗・建築・文学など、都市文化の新たな相貌を照らし出します。

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