「発酵食品」がいま再び脚光を浴びているワケ ブームを支えるのは「健康効果」だけではない

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「ぬかどっ子」では厳選された国内産の米ぬかと国産材料のみを使用し、昔ながら手作り製法でじっくり熟成させたぬか床を販売(写真:ぬかどっ子)

手作りぬか床の販売で知られる静岡市・野中績秀さん経営の「ぬかどっ子」では、ぬか床の購入者に若い女性が増えているという。ぬか床には、たんぱく質、脂質、食物繊維、ビタミンA、B1、B2、B6、E、ナイアシン、カルシウム、リン、鉄など、体に必要な栄養素が含まれている。

酸味の要素は植物性の乳酸菌。これが腸内の働きをよくする。ぬか床に野菜を漬けると、野菜自体の食物繊維、ビタミン、ミネラルも存分に取れるというわけだ。野菜不足になると肌荒れや便秘などの原因になる。また、野菜を多く取ったほうが生活習慣病やがんなどの予防に効果があることもわかっている。

とくに若い女性には、ダイエット志向からの痩せすぎ、野菜不足からの便秘が多く、生活習慣病につながることが指摘されている。ぬか床に漬けた野菜はサラダ感覚で栄養もたっぷり取れると人気のようだ。

発酵食品が注目されることになったのは、健康面からの視点が大きくあるだろう。「腸内フローラ」はNHKの番組でも特集され大きな反響を呼び、関連書籍や新製品も生まれている。腸内フローラを豊かにする食事のレシピも出ているが、それらの食材をみると、ヨーグルト、納豆、塩麹、漬物、みそ、チーズ、キムチ、酢など、発酵食品が多く登場する。

腸内細菌の研究で知られる辨野義己さんの著作に、全国の長寿者の食事と便を調査した『100歳まで元気な人は何を食べているか?』(三笠書房)がある。

長寿の要因には、食物繊維の多い地場産の野菜や穀物、よく歩く働くなどが共通してみられる。それらに加えて、長寿の島として知られる奄美大島の魚みそ、パパイヤの漬物、お米を発酵させたミキなどを始め、群馬県南牧村のシソ巻き(砂糖、ゴマ、みそ)、大分県姫島の納豆みそ、島根県知夫里島のなめみそなど、発酵食品も必ず入っている。腸内環境を豊かにする食材だ。

一方で、人工的な食品添加物が健康被害の要因になるという指摘も大きく広がり、専門の書籍も出ている。商品名も名指しで体によくないと公表する例も珍しくない。そんな中で、伝統的でナチュラルな発酵食品の酢、みそ、しょうゆ、みりん、塩麹、甘酒、かつお節などが注目されることにもなっている。

医療費の高騰と生活習慣病の広がり

健康が注目されているのには理由がある。日本の医療費は、1954年の2152億円から右肩上がりで、2016年には42兆1381億円にまで膨らんでいる。

その背景には生活習慣病の広がりがある。がん、心・血管疾患、脳血管疾患、糖尿病、高血圧疾患などの患者は、1870万人と7人に1人の割合(厚生労働省「平成26年患者調査」)。同時に高齢化も進み、総人口1億2644万人のうち65歳以上は3558万人。総人口に占める割合(高齢化率)は28.1パーセント(2018年)。今後、ますます増えると予測されている。

平均寿命は、2017年現在、男性81.09歳、女性87.26歳。平均寿命は年々上がっているのだが、一方で、平均寿命と健康寿命(病気や認知症や衰弱などがなく健康で暮らせる年齢)の差は約10歳あると言われ、病気になれば、日常生活も困難になるばかりか医療費の負担も多くなる。国でも健康寿命を延ばすことを方針に掲げている。

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