「2019年に刺さったCM」に見るヒットの共通点 消費者の心を動かすアイデアとは何か?

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もう1つは、“キウイ・ブラザーズ”や“アゲリシャス”のキーワードで人気を博した『ゼスプリ キウイフルーツ』だ。日本人、とくに若者のフルーツ喫食率の低さが顕著な市場において、同ブランドの存在感が増大したことは大きな意味を持つだろう。

ゼスプリ キウイ TVCM 2019 #01 「アゲリシャスダンス」篇

ゼスプリ インターナショナル ジャパン株式会社のマーケティング部 部長 猪股可奈子氏は「果物の中でも比較的地味な存在であるキウイフルーツを、消費者の心の中にどうやってインパクト強く残していくか」を最初の課題に設定したという。

現代の消費者は多くの情報に囲まれ、日々忙しく過ごしている。そうした環境下で、他社のキウイフルーツやほかの果物だけを競合とするのではなく、人々を取り巻くあらゆる情報よりも心に留め、愛着を持ってもらうコミュニケーションを目標とした。

そこでローンチした2016年から3年間はCMで栄養などの機能的な側面を訴求。2019年は新たなチャレンジとして、情緒的なベネフィットに焦点を当てた。表現方法としては“言いたくなる言葉”と“歌いたくなるテーマソング”を採用し、伝達力を高めた。

さらに生活者との接点を増やすために、応援してもらえる仕組みづくりにも取り組んだ。あえて未完成のミュージックビデオを公開し、消費者参加型でビデオを完成させていくキャンペーンを展開。売り上げは前年対比で112%と2桁増を達成した。

消費者に“振り向いてもらう”にはどうすればいいか

両社のコミュニケーションの根底に共通するのは、「商品の特徴をターゲットに伝える」という広告の枠を超え、商品に興味のない人にも届ける、楽しませるという遠投力を重視した点だろう。

猪股氏の言うとおり、現代人は多くの情報・モノに囲まれていて、なかなか企業のメッセージが届きにくい。野村氏の言う“振り向いてもらう”という言葉も、「そもそも消費者は自社の商品・情報に興味がない」という厳しい事実を深く理解しているからこそだろう。

消費者の心を動かすアイデアを見極めるとともに、日々刻々と変化する情報環境を深く洞察し続けたことが両社の成功の背景にあるといえよう。

関根 心太郎 CM総合研究所 代表

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せきね しんたろう / Shintaro Sekine

1973年生まれ。1999年株式会社東京企画/CM総合研究所に入社。システム開発・データベース構築の責任者を経て2014年より現職。消費者3000人を対象としたCM好感度調査を中心に、テレビCMの広告効果測定および研究分析を実施。このほか企業へのコンサルティングや情報提供を通して、広告活動の最適化に向けた課題解決のサポートを行っている。

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