Netflix版が作られたのもそんな海外人気が後押ししています。日本でも十分人気を得ている作品ですが、派手なプロモーションや炎上につながる話題とは縁遠い作品です。
小林薫を筆頭に不破万作、綾田俊樹、松重豊、安藤玉恵、余貴美子、オダギリジョーといった実力派のキャストをそろえ、毎度エピソードの主役を飾るゲストもバイプレーヤー的存在の役者陣が主に登場します。自国に向けた人気取りのドラマではない方向性がかえって、海外でファンを集めているのです。
「日本よりも圧倒的に韓国、中国、台湾で人気があることを肌で感じています」と、今年6月に行われたNetflixオリジナル作品祭に『深夜食堂』の遠藤日登思プロデューサーが登壇した時に話していたことが印象に残りました。
台北でNetflix版のプロモーションを行ったときのエピソードも披露し、「台湾メディアがほぼ勢ぞろい。『へえー』と思いました。日本じゃこうはいかない。注目されていることを感じた瞬間でした。全世界に観てもらっていることは撮影現場のモチベーションにつながっています」と、感慨深く話をしていました。
各国で制作されているNetflixのオリジナルシリーズのなかで、『深夜食堂』のように海外で火がつく作品は少なくはなく、例えば、ドイツ初のNetflixシリーズ『ダーク』は全体視聴の90%以上が制作国であるドイツ以外の地域で占めています。
『深夜食堂』が海外でどれぐらいの視聴があるのか、具体的な数値については明らかにされていませんが、Netflixが日本に上陸した当初からNetflixオリジナルバージョンとして『深夜食堂』がラインナップされ、今回、シーズン2も作られた事実は国内外で築き上げている人気の証明になります。
グルメドラマではなく、人情ドラマを作っている
日本と海外では興味の持ち方の違いから、遠藤プロデューサーが海外人気を分析していることも興味深い点です。
「ゴハンもののドラマとして、『孤独のグルメ』と比較されることが多いですが、食べ物を中心にやっているつもりはない。むしろ、落語のような人情ドラマを作っているつもりでやっています。海外の方には食べ物よりも人情の部分がどうやら伝わっているようにも感じています」
「日本の食が世界から注目されている」と、勝手な想いを広げてしまいがちなところですが、独特の感性が海外でインパクトを与えることのほうが多いもの。『深夜食堂』の場合は日本人が持つ「人情」の要素が新鮮に映っているのでしょう。
海外の現地で実際に『深夜食堂』の人気を実感することは多々あります。2019年10月に訪れた中国最大級のコンテンツイベント「BILIBILI WORLD 2019 上海」で『深夜食堂』のセットを再現したコーナーに地元の若者が集まり、再現されたあのカウンターでうれしそうに写真を撮る姿を目にしました。
華やかなステージイベントなども多く開催されている中で、そんな光景を目にしたことで余計に作品の熱を感じました。中国のリメイク版はローカライズのアレンジがいまひとつという理由から不評に終わりましたが、それだけ期待が大きい作品だったともいえます。
Netflix版の新作は世界観を崩さず、淡々とした作りはそのまま。海外ゲストに今回は台湾の実力派俳優ジョセフ・チャンを迎えています。温かい人情ドラマが結果として食欲を誘う。そんなこだわりが日本、海外と人気を広げ、10年にわたって生き続けているのだと思います。
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