デタラメ多数!インフルの"根拠がある"予防法 エビデンスという視点で整理、検証する

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風邪、インフルエンザのひきはじめに「早めの〇〇」といった風邪薬の広告も散見しますが、これらもインフルエンザの重症化を防ぐという科学的根拠はまったくありません。「インフルエンザにかかりそうだから早めに風邪薬を飲んでおいた」なんていうセリフを聞いたこともありますが、効果が期待できないばかりか、眠気などの副作用で損をしてしまっているかもしれません。

確かに「薬による予防」が適切な場面もあります。しかし、ここで言う「薬」は一般的な風邪薬ではなく、インフルエンザ薬です。

例えば、高齢者施設でインフルエンザが流行してしまった場合、施設内ではインフルエンザによる死亡者発生のリスクが上昇します。この場合には、例えばタミフルという薬を通常1日2回飲むところを1日1回として、10日間ほど続ける方法により、感染拡大および死亡リスクを低減させられることが示唆されています。

また、インフルエンザワクチンを接種できていないという方のうち、妊産婦さん、喘息などの肺の病気や慢性的な持病をお持ちの方、高齢者の方は、インフルエンザが疑われる方と濃厚接触してしまった場合に限り、接触から48時間以内にタミフルを内服することで、同様の効果が得られることも示唆されています。

この薬による予防法は、乱用してしまうと薬の耐性ウイルスを生み出すことにつながり、副作用リスクもありますから、そのマイナス面をてんびんにかけて、以上のような場面に限定されて勧められています。漫然と使用することはできません。

また、これらは予防接種の代替法として使われるべきではないという点には強い勧奨が米国疾病予防管理センター(CDC)から出されていることも合わせてお伝えしておきます。しかし、もし先のような説明に該当する場合には、ぜひお早めに医療機関を受診してください。

あなたとあなたの大切な人を守るために

ここまで、インフルエンザ予防のエビデンスについて紹介してきました。「エビデンス」は決してあなたの独自の予防法を否定するものではなく、私にもそのような意図はありません。

しかし、あなたのその予防法が、ほかの人にも有効であるという根拠もありません。より多くの方を守るという視点に立てば、より多くの方で根拠の示された事柄を選択的に広げる必要があるのです。それはひいては日本国民全体を、未来の医療を守ることにもつながります。そのような意味で、エビデンスを学んでいただくことも重要ではないかと思います。

インフルエンザには残念ながらいまだ完璧な予防法は存在しません。しかし、あなた自身とあなたの大切な方を守る最善の方法は何か、そんなことをこの記事を通して考えていただければと思います。

山田 悠史 米国老年医学・内科専門医

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やまだ ゆうじ / Yuji Yamada

慶應義塾大学医学部を卒業後、日本全国の総合診療科で勤務。現在は、米国ニューヨークのマウントサイナイ医科大学老年医学科で高齢者診療に従事する。フジテレビ『FNN Live News α』のコメンテーター、 WEBマガジン『ミモレ』やニュースメディア『NewsPicks』の連載の他、コロナワクチンの正しい知識の普及を行う一般社団法人コロワくんサポーターズの代表理事、カンボジアではNPO法人APSARAの常務理事として活動。著書に『最高の老後 「死ぬまで元気」を実現する5つのM』(講談社刊)、『健康の大疑問』(マガジンハウス新書)がある。Twitter:@YujiY0402

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