娘のことが心配なのは理解できたが、何でもズケズケと聞いてくる父親に苦手意識を持った。
「母は僕が結婚したら、“支援型サービスの付いている老人施設に行って、そこで気ままに生活をする”と言っています。自分が嫁姑問題で苦労したから、嫁さんとの同居は希望していません」
親御さんと話し、彼女の家を後にしたときにはどっと疲れ、結婚する気持ちも萎えてしまった。加えて、彼女は当初、隆一の家の近くでインストラクターの仕事を探すと言っていたのに、今の職場は辞めたくないと言い出した。
「彼女のお客さんは、仕事を終えた後に来る人たち。夜の10時くらいまではお客さんを相手にインストラクターの仕事をしないといけない。そこでの仕事を辞めないとなると、都内に住まないと難しい。僕は、せっかく買った家を手放して都内に新居を構えるのは、考えられなかった」
結局結婚後の話を詰めていくうちに、お互いの気持ちもズレていき、最終的には、隆一から婚約を白紙に戻すことを申し出た。
中年になるほどに、難しくなっていく結婚
「3回の婚約破棄を通じて、結婚が決まれば、なんらかの問題が出てくるのがわかりました。もちろん女性側にも問題がありましたが、僕自身も最後の最後で結婚へと駒を進められなかった。何かこのまま婚活を繰り返して、独身のまま一生終わるのではないかと懸念しています」
さらにこんなことも言った。
「結婚を義務だと考えないと、僕はもう結婚できないのかもしれない。一方で、そこまでして結婚しなきゃいけないのかなという気持ちもある。またもしかしたら、本当は無意識のうちに結婚から逃げているのかもしれない。相手が言ってくる条件と合わなかった。結婚詐欺のような女性に出会った。家がある、親がいる。その条件に合わない女性だから、結婚できない。そんな理由付けをして結婚を回避しているんじゃないかって」
すっかり婚活のブラックボックスに陥っていた。彼のように結婚をあれこれ理論立てて考え出すと、結婚すること自体がつらくなり、難しくなっていく。
彼だけではない。結婚相談所において中年の婚活者は、結婚に向かう真剣交際を終了したり、婚約を解消したりすることは、ままある事象だ。
なぜなのか。それは年を重ねてしまうと、背負うものも大きくなってくるからだろう。仕事のこと、家のこと、親のこと、お墓のことなど、いろいろなしがらみが出てくるのだ。
20代ならば、親も現役で働いているし、介護のことなど頭をかすめない。しかし、中年にさしかかってくると親も年老いてくるので、介護の問題が現実味を帯びてくる。今は元気でも、近い将来どうなるかわからないと思うと、親の介護を視野に入れ、住む場所や同居を考えるようになる。
また、「いい物件に出会ったから」と言って、結婚前に家を買ってしまう人がいるのだが、それは後に結婚するときの足かせになる。買った本人は、愛着があるので売ることは考えたくない。しかし、住む場所が限定されると、共働きの時代なので、その場所でいいと納得する女性も限定されることになる。
さらに親の考え方も、老いとともに変わってゆく。現役で働いていているときは「子どもの世話にはなりたくない」と思っている。しかし、現役を引退し、老いていくうちに心寂しくなっていく。そうすると、ずっと側にいた子どもを手放したくなくなるのだ。「早く結婚して出て行け」と口うるさかった親が、「結婚して、私を捨てて出ていくのか」と、真逆のことを言うようになる。
結婚とは、それまでの生活環境がガラリと変わることだ。頭で考え出し、変化を恐れると、その先の話が進まなくなる。
「何とかなる」「問題は起こったときに解決すればいい」そんなふうに思わないと結婚はできない。
“結婚”は“決断”である。
しかし、この結論にたどり着けるには、さまざまな問題が起こってもそれを凌駕できる、“この相手と一生一緒にいたい”と思う気持ちがないと難しい。それが中年になると、相手を好きになる動物的本能も鈍ってくる。恋愛スイッチが容易に入らなくなる。結果、婚活市場をさまよい続けることとなるのではないだろうか。
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