数年も経てばその杭にかなりの知識がたまります。そうなったところで、学校で土星、惑星、天文学などの勉強をすると、とても面白く感じて積極的に臨むことができます。大抵の子は土星に特別な興味など持っていませんし、予備知識もありませんので、授業にも興味を持ちにくいものなのです。
知識の杭をたくさん持っていると、学習が成立しやすい
私は23年間小学校の教壇に立って授業をしてきましたが、勉強が好きでよくできる子は、こういう知識の杭をたくさん持っています。ですから、いろいろな勉強において、予備知識と興味関心があるのです。
このような状態を教育心理学では「レディネスがある」といいます。「ブリタニカ国際大百科事典」には、「レディネス」が次のように説明されています。「学習活動に効果的に従事することを可能ならしめる学習者の心身の準備状態をいう。心身の成熟、適切な予備訓練、興味あるいは動機づけなどに依存する」。
よく世間では、「子どもは、何も知らない状態で授業に臨むほうが新鮮で意欲的に取り組む。事前にちょっと知っていると、もうわかった気になって授業への集中がおろそかになる」という考え方をする人がいますが、これは勘違いです。子どもはまったく未経験で未知なことを授業で学ぶと、「え? 何それ? そんなの知らない。難しそう。私はこの勉強ダメみたい」と感じてしまうことが多いのです。
逆に、子どもはちょっと知っていることや経験したことを授業で学ぶと、「これやったことある。え、みんな知らないの? 私は知ってるよ。私はこの勉強が得意みたい」と感じて積極的に臨めます。つまり、教育心理学でいうとおり、前者のようにレディネスがない状態では学習が成立しにくく、後者のようにレディネスがある状態のほうが学習が成立しやすいのです。
小学3年生の昆虫の勉強でも、本物体験の有無によるレディネスの差が顕著に出ます。例えば、A君は、モンシロチョウの卵から幼虫(青虫)が生まれ、さなぎになり、羽化して成虫になるところを観察したことがあります。また、バッタの卵を取ってきて、それが幼虫になり、さなぎにはならずに、そのまま脱皮してから成虫になるところも観察したことがあります。
そういう時間の中で、A君は「モンシロチョウのさなぎの中はどうなっているのかな?」と想像したり、「バッタは、なぜ、さなぎにならないんだろう?」と疑問に思ったりします。そして、「生き物って不思議だな」とも感じます。そんなA君が授業で「完全変態」と「不完全変態」の勉強をすれば、とても面白く感じて積極的に臨むことができます。
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