カゲロウの一生はあまりに短くそしてはかない 3億年にわたる命をつないできたつわもの

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メスたちには、残された仕事がある。川の水面(みなも)に着水して、水の中に卵を産まなければならないのである。早くしなければ、命が尽きてしまうのである。夜は刻一刻と更(ふ)けていく。まさに時間との戦いなのだ。

しかし、無事に着水したとしても、メスに一息つく時間はない。

魚たちにとって、水の上のカゲロウは、格好の餌でしかない。次々に着水するカゲロウたちを、今度は魚たちが狂喜乱舞して食い始める。

そして、あるものは食われ、あるものは生き残る。

運よく生き残ったメスたちは、水の中に新しい命を産み落とす。そして、卵は静かに水の底へと沈んでいくのだ。

産み落とした命を見届けたかのように、メスのカゲロウたちの命の炎も消えてゆく。

子孫を残す、ただそれだけの生涯

子孫を残す。カゲロウたちにとっては、ただ、それだけの生涯である。

何というはかない生き物だろう。何というはかない命だろう。

息絶えたメスの亡骸(なきがら)もまた、魚たちにとっては、恰好の餌である。魚たちのパーティーは、まだまだ終わりそうにない。

残酷に時が過ぎれば、パーティーは終わりである。カゲロウの成虫は数時間しか生きることはない。夜が更ければ、交尾を終えた満足気なオスたちも、水面までたどりつくことのできなかったメスたちも、交尾に失敗した多くの成虫たちも、次々に死んでゆくのである。

短い命である。

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夜が更ければ、辺り一面、カゲロウたちの大量のむくろが、紙吹雪のように風に舞う。

まるで地吹雪か何かにさえ見えるその様子は、もはや気象現象と言っていいほどだ。

こうして、カゲロウたちの一夜が終わる。

確かに短い命である。はかない命である。

しかし、このはかない命こそが、カゲロウたちが3億年の歴史の中で進化させたものである。カゲロウたちは、間違いなくその生涯を鮮やかに生き切り、天寿を全うしているのである。

稲垣 栄洋 静岡大学農学部教授

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いながき ひでひろ / Hidehiro Inagaki

1968年静岡市生まれ。岡山大学大学院修了。専門は雑草生態学。農学博士。自称、みちくさ研究家。農林水産省、静岡県農林技術研究所などを経て、現在、静岡大学大学院教授。『身近な雑草の愉快な生きかた』(ちくま文庫)、『都会の雑草、発見と楽しみ方』 (朝日新書)、『雑草に学ぶ「ルデラル」な生き方』(亜紀書房)など著書50冊以上。

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