カゲロウの一生はあまりに短くそしてはかない 3億年にわたる命をつないできたつわもの
メスたちには、残された仕事がある。川の水面(みなも)に着水して、水の中に卵を産まなければならないのである。早くしなければ、命が尽きてしまうのである。夜は刻一刻と更(ふ)けていく。まさに時間との戦いなのだ。
しかし、無事に着水したとしても、メスに一息つく時間はない。
魚たちにとって、水の上のカゲロウは、格好の餌でしかない。次々に着水するカゲロウたちを、今度は魚たちが狂喜乱舞して食い始める。
そして、あるものは食われ、あるものは生き残る。
運よく生き残ったメスたちは、水の中に新しい命を産み落とす。そして、卵は静かに水の底へと沈んでいくのだ。
産み落とした命を見届けたかのように、メスのカゲロウたちの命の炎も消えてゆく。
子孫を残す、ただそれだけの生涯
子孫を残す。カゲロウたちにとっては、ただ、それだけの生涯である。
何というはかない生き物だろう。何というはかない命だろう。
息絶えたメスの亡骸(なきがら)もまた、魚たちにとっては、恰好の餌である。魚たちのパーティーは、まだまだ終わりそうにない。
残酷に時が過ぎれば、パーティーは終わりである。カゲロウの成虫は数時間しか生きることはない。夜が更ければ、交尾を終えた満足気なオスたちも、水面までたどりつくことのできなかったメスたちも、交尾に失敗した多くの成虫たちも、次々に死んでゆくのである。
短い命である。
夜が更ければ、辺り一面、カゲロウたちの大量のむくろが、紙吹雪のように風に舞う。
まるで地吹雪か何かにさえ見えるその様子は、もはや気象現象と言っていいほどだ。
こうして、カゲロウたちの一夜が終わる。
確かに短い命である。はかない命である。
しかし、このはかない命こそが、カゲロウたちが3億年の歴史の中で進化させたものである。カゲロウたちは、間違いなくその生涯を鮮やかに生き切り、天寿を全うしているのである。
記事をマイページに保存
できます。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら
印刷ページの表示はログインが必要です。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら
無料会員登録はこちら
ログインはこちら