カゲロウの一生はあまりに短くそしてはかない 3億年にわたる命をつないできたつわもの

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尋常ではない大量発生にも意味がある(写真:doodool/ PIXTA)
生きものたちは、晩年をどう生き、どのようにこの世を去るのだろう──。生きものたちの奮闘と哀切を描いた『生き物の死にざま』から、カゲロウの章を抜粋する。

人の命の一生のはかなさをたとえて「かげろうの命」と言う。

カゲロウはトンボに似た昆虫だが、トンボのように颯爽(さっそう)と飛ぶことはできない。飛ぶ力は弱く、風に舞うかのように空中を飛ぶ。

空気がゆらゆらと揺らめいて見えることを陽炎(かげろう)と言う。カゲロウは、この陽炎のように不確かではかないことから名付けられたと言われている。あるいは、ゆらゆらと飛ぶようすが、陽炎のように見えたからという説もある。

いずれにしても、弱々しい虫というイメージがあるのだ。

さらに、この弱々しい虫は、成虫になって1日で死んでしまうことから、「はかなく短い命」の象徴として、「かげろうの命」という言葉が作られた。

日本以外でもこのイメージは同じだったようだ。

カゲロウの仲間を意味する学名「Ephemeroptera」は、「1日」という意味と「翅(はね)」という意味のラテン語から作られた造語である。

切手やはがきなどの使い捨ての一時的な印刷物を「エフェメラ」と呼ぶが、これも「1日」という意味のラテン語に由来しており、「カゲロウのように刹那(せつな)的な」というニュアンスを含んでいる。

カゲロウの成虫は数時間しか生きられない

このようにカゲロウは、短い命の象徴である。1日で死んでしまうと言われるカゲロウの成虫は、実際には数時間しか生きられない。短くはかない命である。

しかし、本当にそうだろうか。

実は、カゲロウは、昆虫の世界ではけっして短い命ではない。むしろ、相当の長生きと言っていいくらいだ。

確かにカゲロウは、成虫になると数時間のうちに死んでしまう。「かげろうの命」のイメージどおり、短い命なのだ。

しかし、それはあくまでも成虫の話である。

カゲロウは、幼虫の時代を何年間も過ごす。正確な幼虫の期間はわかっていないが、2~3年と考えられている。セミと同じように、幼虫の時間が長いのだ。

昆虫の多くは、卵から成虫になって死ぬまでが数カ月から1年以内である。それと比較すると、カゲロウは何倍も寿命が長いと言っていいだろう。

私たちが目にするカゲロウの成虫は、カゲロウにとっては死ぬ間際の一瞬の姿なのである。

カゲロウの幼虫は、川の中に棲(す)んでいる。流れのある川などに棲むため、よく渓流釣りの餌に用いられる。

そして、数年をかけて成長をした後に、夏から秋にかけて羽化して空を飛ぶようになるのだ。

ところが、カゲロウは他の昆虫と比べて変わったところがある。

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