カゲロウの一生はあまりに短くそしてはかない 3億年にわたる命をつないできたつわもの

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一般的に昆虫は幼虫が羽化して翅を持つと成虫になる。ところが、カゲロウは違う。

幼虫から羽化しても、まだ成虫にならないのである。

カゲロウの幼虫から羽化したものは、「亜成虫」という成虫の前段階のステージとなる。この亜成虫は翅があって空を飛ぶ。しかし、亜成虫はあくまでも亜成虫であって、成虫ではない。カゲロウはこの亜成虫の姿で移動し、再び脱皮をして、最終的に成虫となるのである。

何とも奇妙な生態だが、実はカゲロウは昆虫の進化の過程では、かなり原始的なタイプである。昆虫の進化の過程の古い生活史を今に残しているのである。進化を遂げた現在の昆虫の常識から見れば、奇妙な生態を持っているが、実際にはカゲロウの生活史のほうがオリジナルなのだ。

昆虫の進化は謎に満ちている。

何しろ、私たちの祖先が、ひれを持つ魚類から足を持つ両生類に進化を遂げて、地上への進出を試みていた頃、すでに、カゲロウの仲間は翅を持ち、現在と同じように空を飛んでいたほどだ。

翅を発達させて空中を飛んだ最初の昆虫

地球に初めて誕生した昆虫は翅がなかったと考えられるが、カゲロウは、翅を発達させて空中を飛んだ最初の昆虫であると推察されているのである。

それから3億年。カゲロウは現在も変わらぬ姿をしているのだからすごい。カゲロウは生きた化石なのである。生き残ったものが勝者という進化の生き残りゲームの中では、カゲロウこそが最強の生物の一つなのだ。

それにしても、どうして3億年もの間、カゲロウは厳しい生存競争を生き抜くことができたのだろうか。

その秘密こそが、「はかない命」にある。

カゲロウにとって、「成虫」というステージは、子孫を残すためのものでしかない。

成虫になったカゲロウは、餌を獲ることはない。それどころか、餌を食べるための口も退化して失っている。そもそも、餌を獲ることができないのだ。

カゲロウにとっては、餌を食べて自らが生きることよりも、子孫を残すことのほうが大切なのである。

翅を持った成虫が、いたずらに長く生きていれば、子孫を残す前に天敵に食べられたり、事故にあったりして、死んでしまうリスクが高まる。どんなに長生きしても、子孫を残せないのであれば、意味がない。しかし、カゲロウのように成虫の期間が短ければ、子孫を残すという目的を達成しやすくなる。カゲロウに「天命」というものがあるのだとすれば、カゲロウの成虫は、天命を全うするために命を短くしているのである。

とはいえ、ゆらゆらと飛ぶことしかできないカゲロウには、天敵から逃げる力もなければ、身を守る術もない。

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