カゲロウの一生はあまりに短くそしてはかない 3億年にわたる命をつないできたつわもの
そんなカゲロウの中には大きな群れを作る種類がある。
それも少しばかりの大きさではない。大きな大きな群れを作るのである。
夕刻になると、カゲロウたちは一斉に羽化して成虫となり、大発生するのだ。
日本で大発生が話題になる例として、オオシロカゲロウがある。その数は尋常ではない。空を舞うカゲロウたちは、まるで紙吹雪のようである。
視界が塞(ふさ)がれて、道路では、追突事故が起きたり、通行止めになったりする。電車が止まったりして交通麻痺を引き起こすことさえある。こうして、人間の生活に影響を及ぼすほどの大群で発生するのである。
カゲロウは日が傾き薄暗くなった時間を見計らって羽化を始める。
夕刻に発生するのは、昆虫の天敵である鳥から逃れるためである。
もちろん、カゲロウが地球に出現した大昔には、鳥類など影も形もない。鳥がねぐらに帰る時間帯に羽化するというのは、長い進化の歴史の中でカゲロウが獲得した知恵なのだろう。
しかし、夕刻になると現れる天敵もいる。コウモリである。
何しろ、カゲロウの大群は、コウモリにとってはご馳走である。
大量発生したカゲロウは食べ尽くされない
コウモリたちは、狂喜乱舞(きょうきらんぶ)して次々にカゲロウを捕食する。しかし、大量に発生したカゲロウを食べ尽くすことはできないから、多くのカゲロウたちは生き残ることができる。
これこそが、カゲロウたちの作戦である。大きな大きな群れを作っていたのは、コウモリに食べ尽くされないためだったのだ。
あるものは食われ、あるものは生き残り、カゲロウたちは群れで舞い続ける。この大群の中で、オスとメスとが出会い、交尾をするのである。
しかし、このパーティーに許された時間は限られている。何しろカゲロウの成虫に与えられた寿命はごくわずかなのだ。
シンデレラの舞踏会のように時を刻む鐘が鳴れば、魔法が解けるようにカゲロウたちはこの世から消え去ってしまうのだ。
限られた時間の中でカゲロウたちは交尾を行う。
カゲロウにとって、「成虫」というステージは、子孫を残すためのものでしかない。
交尾を終えたオスたちは、天命を全うした満足感とともに、その生涯を終える。
「カゲロウの命」と言われるように、はかなく静かに、命の炎は消えてゆくのである。
一方、メスたちはまだ死ぬわけにはいかない。
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