国民年金・厚生年金「積立金統合案」、何が問題か 狙いは年金底上げ、統合案浮上の深刻事情

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まさに正論である。国民年金の財政が安定していて、しっかり給付できるなら、厚生年金と国民年金の積立金を統合する必要はない。ところが、そうでない事情があるから悩ましい問題となっている。

それは、今の仕組みのまま何もしないと、国民年金にしか加入していない人の給付が目減りし、低年金になる人やほぼ無年金の人が増えて、老後に生活保護受給者になりかねないことだ。生活保護の財源は税金で、受給者の医療は全額税金で賄われ、生活保護受給者が増加した費用は国民全体で負担することになる。

国民年金はなぜ将来目減りするのか

国民年金にしか加入していない人の年金給付がなぜ目減りするかというと、マクロ経済スライドによって給付を減額されるからである。拙稿「働く人が減れば生産性は向上、賃金も上がる」で述べたように、マクロ経済スライドは年金給付の世代間格差を是正するためのものだ。

今の年金制度は、保険料負担がこれ以上増えないよう、2017年度以降保険料を上げないこととなっている。今後は、少子化が進んで年金保険料を払う現役世代の人口が減るのに伴い、保険料収入が減ると見込まれる。そのため、現役世代の人口が減るのに合わせて、年金の給付水準を減らさないと帳尻が合わなくなる。これが、マクロ経済スライドの仕組みの本質だ。

ただ、将来世代の年金が目減りし過ぎないよう、年金積立金を取り崩して給付を補うこととしている。

今年8月に厚生労働省が公表した年金の財政検証によると、厚生年金はマクロ経済スライドをほとんど発動しなくても、今後100年間の年金財政の収支尻を合わせることができる。しかし、積立金が少ない国民年金はマクロ経済スライドを使って給付を大きく減らさないと、年金財政の収支尻が合わない。

詳しく言うと、受給開始時の年金額が、その時点の現役世代の所得に対してどの程度の割合かを示す所得代替率で測った給付水準は、2047年度以降の高齢者の場合、50.8%となる(財政検証のケースⅢの値)。

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