名古屋の「大陸系中華」が東京に出店する理由 辛さよりも肉の旨みが際立つ「台湾ラーメン」

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台湾ラーメンの発祥は、昭和40年代。名古屋市千種区今池にある『台湾料理 味仙』が台湾料理の坦仔(タンツー)麺を激辛にアレンジしたのが始まりだ。当初は常連客が裏メニューとして注文していたが、1980年代の激辛ブームで人気に火がつき、名古屋市内のラーメン店や中華料理店はこぞって台湾ラーメンをメニューに採り入れた。

「『眞弓苑』でも台湾ラーメンで有名な『味仙』さんのメニューを採り入れようと、父と渡邊さんは店に何度も足を運んでは研究したそうです。とくに台湾ラーメンは、『味仙』さん以外にもいろんな店食べに行き、覚王山にあった屋台で食べた台湾ラーメンを参考にしたようです」(斎藤さん)

むせ返るような辛さをウリとした『味仙』の台湾ラーメンに対して、『龍美』のそれは、辛さよりも旨みを追求しているのが特徴だ。ベースとなるスープも丁寧に下処理をした豚骨と鶏ガラをじっくりと煮込み、それぞれの旨みをしっかりと抽出している。豚挽き肉とニンニク、唐辛子などをじっくり煮込んだ自家製の台湾ミンチを合わせても負けないどころか相乗効果でますますおいしくなる。

先ほど書いたように、台湾ラーメンの発祥は味仙であるのは間違いない。しかし、ベーシックな醤油味のラーメンに、台湾ミンチとニラをのせるだけというオペレーションの手軽さもあって、名古屋ではむしろこのタイプの台湾ラーメンが一般的なのだ。

東京出店で気づいた「名古屋中華」の魅力

「台湾ラーメン以外にも『味仙』さんで人気の手羽先の辛口煮や台湾風辛口酢豚、青菜炒めなども用意しています。ただ、看板には中国料理とあるのに、メニューには台湾ラーメンとか台湾風○○とあるので、お客さんから『ここは何の店?』とよく聞かれます(笑)。名古屋では当たり前だと思っていましたが……。逆にそれが“名古屋中華”ではないかと気がついたんです。ひいてはそれを広めるのが私の役割ではないかと思っています」

蔡さんと渡邊さんの話に戻そう。渡邊さんは1994年に独立し、名古屋駅近くに『中国料理 千龍』を開店させた。一方、蔡さんが『中国料理 龍美』の1号店を創業させたのはその5年後。2人とも『眞弓苑』時代に考案したお値打ちなセットと台湾ラーメンをはじめ、『味仙』で人気のメニューを採り入れたのである。

左から、店長の中瀬古樹さん、代表の斎藤隼さん、料理長の寺木正和さん。名古屋の店はスタッフ全員が中国人だが、東京1号店は日本人スタッフが中心(筆者撮影)

その後、蔡さんは名古屋市内に店舗を拡大した。さらに、そこで働いていた料理人が独立したり、中国から蔡さんを頼って来日した人が店を開いたりもした。中には蔡さんとはまったく面識がない中国人がメニューや価格をそっくりそのまま、まねをして店をはじめるケースもあったという。それをまた別の中国人がまねて……といった具合に、大陸系中華は雨後のタケノコのごとく激増していったのだ。

リーズナブルな大陸系中華は、名古屋よりも物価が高い東京にニーズがあるのではないか。今後、東京で店が増えていったら――名古屋のご当地ラーメン、台湾ラーメンが東京で定番メニュー化するかもしれない。

永谷 正樹 フードライター、フォトグラファー

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ながや まさき / Masaki Nagaya

名古屋を拠点に活動するフードライター兼フォトグラファー。

地元目線による名古屋の食文化を全国発信することをライフワークとして、グルメ情報誌や月刊誌、週刊誌などに記事と写真を提供。

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