会社に通うようになっても、やはりスーツを着るのは嫌だった。
しかも望んでいた編集部ではない部署に回され、そこでの仕事も面白いとは思わなかった。
「すぐに嫌になって、夏頃にはいつ辞めると言おうかタイミングをはかってましたね。結局、就職して11カ月で辞めました」
会社へは実家から通っていたが、会社を辞めた後は再び1人暮らしを始めた。
神楽坂の6畳風呂なしトイレありの4万円の物件だった。
「もう23歳で親には頼れないので、1カ月くらい休んだ後、塾の講師やテレオペ(電話オペレーター)の仕事を始めました。小さい出版社で編集のアルバイトも始めました」
そして働いて貯めたお金で念願だったデザインの専門学校へ行き始めた。
学校は夜間だったので、出版社のバイトは継続した。
女性に変われると、自信を持ったきっかけは“声”だった
「専門学校に通い始めた頃、『そろそろ性別を変えようかな?』と思い始めたんですね。入学した時は、男の子だったんですけど、在学中にだんだんグラデーションで変わっていった感じです」
能町さんが、本気で女性へ変われると自信を持ったきっかけは“声”だったという。
「もともとすごい低い声だったんです。この声はないわ、どうにかなんないかな? と思って、夜に練習してたんです。そうしたら、ちょっとずつベースの声が高くなっていったんですね。それでいけるかな? と思いました。今思うと、単純な声の高さよりも、喋り方が大事なのかもしれません。やりすぎないようにする感じが難しいです。
見た目のほうは、もともとよく女性と間違えられることもあったので、どうとでもなるだろうと思っていました」
この頃に、家族にはカミングアウトをしたという。多少、ショックを受けているようだったが、大きな騒ぎにはならなかった。
「正直、少しは察しているかなと思ったんですけど、まるっきり気づいてなかったですね。結構、それっぽい服とか着てたんですけどね……。日頃よく見ている親でもそんなもんなんだなあ、と思いました(笑)」
男性として入社した出版社は辞めることにした。そして、次の仕事は最初から女性として入社しようと思った。
「学友に『喫茶店のウェートレスでバイトしてみない?』と言われて働きました。普通の仕事量だったのに接客に向いてなさすぎて、ほぼクビみたいな感じで1カ月で辞めました。ただ、男性であるとは疑われませんでした」
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