中央銀行が環境問題に手を出すのは無理筋だ ラガルドECB総裁はやはり政治的すぎるのか
環境問題が重要だからといってそれを中央銀行が考慮すべきかどうかはまったく別問題ではないだろうか。率直に言って環境問題を斟酌した金融政策運営は無理筋に思えてならない。
この点について、①政策波及経路が想像できない、②役割区分を取り違えている、という2点から考察したい。評価する際に必要な視点は、気候変動が「重要か、重要ではないか」ではなく、「中央銀行がやる筋合いのものか」ということなのである。
まず①の「政策波及経路が想像できない」という思いは多くの市場参加者が抱くはずだ。そもそも庭先であるはずの物価や賃金ひいては景気の変動を制御することにも難渋しているのに、気候の変動を制御できるというのか。どのような手段や経路、そして確度を想定して政策運営をすれば気候変動に有意な影響を与えることができるのか。また、それをどうやって検証するのか。
気候変動は短くても数百年、長くて十万年といった時間軸で捉えるべき問題であるとの指摘もよく聞く。その変化を経済主体がはっきりと実感する頃には数世代が入れ替わるような時間軸の長いテーマだ。今起きている変動がいつ頃の経済活動に起因しているのか(あるいはしていないのか)を特定するのも難しいのに、どうやって適切な金融政策を割り当てるのか。景気安定化を主な目的として、今月や来月の株価や為替に振り回されている中央銀行が悠久の時を超えて変化が現れる環境問題の変数まで考慮するというのはいささか尊大に思える。
前のめりなビルロワドガロー仏中銀総裁
非常にうがった見方であることを承知で言えば、本当に地球温暖化が人間の営む経済活動の活発化と因果関係があるならば、金融引き締めを行って経済活動の停滞化を図るのが正解、という考え方も間違っていないことになる。むしろ金融政策の波及経路としては最もシンプルで腑に落ちる考え方である。だが、納得が得られないことは言うまでもない。
一方、ビルロワドガロー仏中銀総裁はFT紙の取材に対し以下のように述べている。「エネルギー価格の上昇と経済成長率の低下を通じて、地球温暖化は"スタグフレーションショック"を引き起こす恐れをはらんでおり、(これに対抗策を講じることは)すでに物価安定の責務の一部(already part of our price stability mandate)になっている」。ロジックとしては納得できなくはない。
しかし、「金融政策という手段で気候変動を抑制できるのか」という根本的な疑問を抱くのは筆者だけではあるまい。中央銀行は症状に対する適切な処方箋を持たないと思われる。また、同総裁は地球温暖化をECBの経済予測モデルに織り込むべきだとまで述べているが、四半期ごとに改定され、1年前と方向感が大きく変わることも珍しくないスタッフ見通しに環境問題という論点を入れ込んでECBの「次の一手」が変わるのだろうか。
ちなみに、ビルロワドガロー総裁は、11月末、日本銀行も遂に参加することが報じられた「気候変動リスクに係る金融当局ネットワーク(NGFS:Network for Greening the Financial System)」の創設メンバーの1人として知られている。今後も同様の発言を繰り返すことが予想される。
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