イスラム教徒に忖度する「インドネシア」の憂鬱 国是の「多様性の中の統一」から逆行
11月12日、インドネシア・ジャワ島のジョグジャカルタにあるバントゥル県マンギル・ロル村でのことだ。仏教徒が約50人集まり信者の自宅で仏教行事を行っていたところ、周辺に住むイスラム教徒約100人が押しかけて行事の中止と参加者の解散を求めて騒ぎ始めた。
駆けつけた警察官らは騒ぎを鎮めるのではなく、仏教徒の住民に対して「行事の即刻中止と解散」を要求した。理由は「周辺住民の動きをコントロールできず、混乱が生じる危険があるため」と説明したという。
国是は「多様性の中の統一」
同県カレット村では4月にはキリスト教徒の住民が新たに転入しようとしたところ、地区の代表から「この村はイスラム教徒の村であり、異教徒は住むことが許されていない」として拒否された。
実は同県でこうした事態が起こるのははじめてではない。過去にはイスラム教徒住民がキリスト教地区指導者に指名された信者を拒否したり、新たに建設される仏教施設やヒンドゥー教施設に対して反対運動を起こしたりと、対立が続いていた。こうした事態は首都ジャカルタ近郊など各地でも増えており、インドネシア全体を覆う重苦しい空気を反映している。
人口世界第4位、そしてその88%という世界最大のイスラム人口を擁する東南アジアの大国インドネシアが今、大きく揺れている。約580の言語、文化を持つ約300の民族が統一国家としてまとまるために、初代スカルノ大統領が掲げた国是が「多様性の中の統一」であり、キーワードは「寛容性」だった。
しかし、ジョグジャカルタ・バントゥル県の例のように最近のインドネシアは宗教的、民族的、性的とあらゆる社会的少数者に対する差別、迫害、排除が頻発。警察ですら公正な捜査を避ける傾向にあり、社会全体がそれを黙認する雰囲気が強まっている。宗教的に圧倒的多数であることに由来する「イスラム教規範の暗黙の優先や強制」と、それを「忖度(そんたく)する少数派」という構図が多民族国家の姿を歪めているともいえる。
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