イスラム教徒に忖度する「インドネシア」の憂鬱 国是の「多様性の中の統一」から逆行

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「社会的差別助長ではないか、機会均等に反するのではないか」との指摘に対して最高検察庁報道官は「それぞれの役所には職務遂行に必要な基準というものがある。LGBTは精神的障害者といえ、本庁は普通の人を採用対象としている」と堂々と公言。インドネシアではLGBTは精神的な病と一般的に解釈されていることが背景にある。

これに対して政府や議会、大半のマスコミも一部のリベラル派だけが反論しているものの、大半は問題視していないという実態がある。これまで貿易省など他省庁でも同様の採用基準を設けていたが、社会的批判を受けて現在はすでに撤廃されている。

一部地域では同性愛行為は禁忌

現在では検察庁だけが堂々と公言している差別だが、採用実績では依然として各省庁、警察や軍といった治安組織、地方公共団体などでは、性的少数者や障害者に対する差別は厳然と存在しているとの指摘もある。

イスラム教徒の若者の中には、高学歴者であっても「LBGTは病気であり、そうである以上治療が必要」と公言してはばからない人もいる。日本企業に務めるインドネシア人男性のLBGTへの露骨な差別から、日本人妻と夫婦喧嘩になったという家庭もある。

インドネシアで唯一イスラム法が適用されているスマトラ島北部のアチェ州では、同性愛行為は禁忌で、発覚した場合は公衆の面前でのむち打ち刑に処される。イスラム法が適用外のインドネシアのほかの地域でも、同性愛者は差別と侮蔑の対象となっている。それは圧倒的多数のイスラム教徒が信じるイスラム法がそう規定しているから、という理由である。先の日本人女性の夫も、イスラム教徒であることが思考の源泉になっているといえる。

こうした公的機関の差別は女性にも及んでおり、未婚の女性警察官の採用に当たっては国際的な人権団体や女性組織からの批判を受けて表向きは中止されたといわれているが、依然として「処女検査」が密かに実施されているとされる。その理由は「犯罪を取り締まる立場の女性警察官が未婚で性的関係を持つことは問題であり、ふさわしくない」からだとされている。

こうした不寛容性が広がる中、インドネシアの若い世代にとっては、12月のクリスマスは悩ましいイベントである。イスラム教保守派は「イスラム教徒がキリスト教の行事であるクリスマスを祝うことは許されない」との立場を明らかにしているからだ。

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