イスラム教徒に忖度する「インドネシア」の憂鬱

国是の「多様性の中の統一」から逆行

インドネシアでは大統領や閣僚、国会議員、実業家、研究者などが演壇でスピーチや演説を始める際のあいさつとして定型となっている冒頭の言葉がある。

イスラム教の「アッサラーム・アレイクム(神の平和を)」という言葉に続いて、「シャローム」(キリスト教)、「オーム・スワスティアスタ」(ヒンドゥー教)、「ナムブダヤ」(仏教)と各宗教の言葉を口にし、それから本論、本題に入っていくのだ。

これは、憲法の前文に記載されている国家5原則である「パンチャシラ」に「唯一神への信仰」と規定されながらも、イスラム教を国教とはせずに他宗教も認めていることに由来している。

大統領の見解は?

しかし、この言葉に対してイスラム指導者組織である「ウラマ評議会(MUI)」東ジャワ州地方支部が11月8日、イスラム教徒が異教徒の言葉を使用するのは「宗教上ふさわしくない」として、特に公職にあるイスラム教徒に対して異教徒の言葉を慎むよう勧告。MUIはマアルフ・アミン副大統領が要職を務めたこともあるイスラム保守派の組織で、その影響力は大きい。

これに対してインドネシア最大のイスラム教団体で、穏健派の「ナフダトールウラマ(NU)」東ジャワ支部が即座に反応。イスラム教徒が異教徒の言葉を使用してあいさつをする習慣について「特に問題ない」との立場を明らかにした。

だが、これは「禁止もしないが推奨もしない」という姿勢で、宗教的少数派とイスラム教徒双方に気を遣った玉虫色見解といわれ、穏健派ですら忖度(そんたく)をせざるをえない実情を反映したものといわれている。

一方、ジョコ・ウィドド大統領は、依然として演説をこれまで通りの4宗教の言葉から始めている。穏健派といわれるイスラム教徒や、若い世代の間でも「自分が言いたいのであれば、自分の宗教の言葉だけでなくてもいいのではないか」と冷めた見方が多く、躍起となっているのは一部のイスラム急進派だけのようだ。しかし、そうした一部が大半に化けてしまう恐ろしさが今のインドネシアには潜在しているのだ

性的マイノリティーや障害者に対する寛容性も低いままだ。インドネシア検察庁は11月中旬、同庁による新規職員採用に関する採用基準で「性的少数者(LGBT)と心身障害者は応募資格がない」ことを明らかにした。

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